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冬の弱々しい太陽がひっそりと沈もうとしていました。しかし、街の人たちがそれに気づくことはありません。何故って、その日は朝からどっしりとした雲が空をすっぽりと覆っていて一度も太陽が顔を出すことがなかったからです。
そして、もう一つ。街の人たちが太陽の事をすっかり忘れてしまう理由がありました。
小脇に大きな包みを抱えた男の人。
手をつないで笑い合うカップル。
はしゃぐ子供をたしなめ、たしなめ両手一杯に買い物袋を持って歩くお母さん。
みんな、今夜の事で頭が一杯で空を見上げようなんてすっかり忘れていたのです。
ドンっと足早に歩く男の人とおじいさんがぶつかりました。おじいさんはよろめくと道端にしゃがみこんでしまいます。
でも、ああ、なんということでしょう。男の人は気づかずにそのまま行ってしまうではありませんか。もしかしたら、おじいさんがあまりにみすぼらしい格好だったのでかかわり合いになりたくなかったのかもしれません。
たしかにおじいさんの服はきれいとは言えませんでした。いえ、正直に言いましょう。とても汚れていました。
赤茶けた布地のところどころが煤のような黒い染みがついていました。もしも触ったら手が真っ黒になってしまいそうです。
そのせいでしょうか、道いく人たちはうずくまっているおじいさんに見向きもせず自分の思う方向にどんどんと歩いて行ってしまいます。
おじいさんは力なく首を巡らすとまわりに目を向けました。
街の建物ではちらりほらりと電灯が灯りはじめていました。
おじいさんは、ほうっと大きなため息をつきました。ため息はすぐに凍えて真っ白に変わります。
どこからか陽気な音楽が聞こえてきました。なんと言っても今夜はみんなが大好きなクリスマスの夜なのです。
2020/12/30 初稿




