思いがけない再会3
「きっと天職なのでしょうね」
さりげなく話題の続きを話し、何もなかったことにしてくれたことにほっとする。
きっと優しい人なのだろう。
先程微笑んでいたのも、きっとクレハが気にしないようにしてくれたのだろう。
だからクレハはその話に乗る。
「そうだとしたら嬉しいです」
本当にそうだったら嬉しい。
まだまだ未熟で歯が立たないことも多いが仕事には誇りを持っている。
だから今やることは、きっちりと案内することだ。
決して彼に見とれていることではない。
「あっ、すいません。すぐ戻るので少しだけ待っていてください」
空のカートを見つけたので一言断って取りに行く。
このカートは二段の棚状になっているもので書棚のように本を並べて使えるのだ。
「本が多かったので、これ使ってください。帰る時にこの上に本を置いて部屋の外に置いておいてもらえれば片しますので」
「わかりました。ありがとうございます」
普段はクレハたち司書が使っている物だが、利用する資料が多い時は利用者が使うことも認められている。
そうこうしているうちに目的の棚まで辿り着いた。
「そのメモに載っていた本はこの辺りの棚にあります」
「ありがとうございます」
「よろしければ本を見つけるのもお手伝いしましょうか?」
「できればお願いしたいです」
「承知しました。もう一度メモを見せていただけますか?」
「はい」
ソウヤからメモが渡される。
メモを見て本を確認しているとソウヤが後ろからのぞき込んできた。
彼も探すつもりなのだろうから当然だ。
当然だが、鼓動が速くなる。
は、離れてほしい。
「え、えっと、これとこれとこれは、その棚にあるはずです。私はこちらの棚にあるものを探しますね」
「はい。お願いします」
「メモはこちらに置いておきます」
カートにメモを置き、そそくさと離れた。
変に思われないといいけど。
落ち着かない様子で離れていったクレハにソウヤは微笑みがこぼれるのを止められない。
わざと後ろからメモをのぞいたのだが、動揺してくれたようだ。
ちょっとした意地悪だったが、ソウヤを異性として認識してくれているようで嬉しかった。
ソウヤは言われた棚の前に移動する。
すっと笑みを消して真剣な顔になる。
ここからは仕事をきっちりとやらなければならない。
メモに書かれている本のタイトルは頭に入っている。
並べられている本を順番に眺めてリストの本を抜いていく。
自分の担当の棚に向かい合いながらちらりとソウヤを見た。
真剣な顔で棚に向き合って本を探している。
クレハも仕事を頑張らなければ。
クレハは気を引き締めてメモに書いてあった本を抜いていく。
何冊か本を抜き、ふと気になってクレハはもう一度メモを見る。
朧気ながら何を調べたいのかが見えてくる。
それならーー。
クレハは棚に向き直る。
再びメモに書いてある本を抜いていく。
そして、メモに書かれている本とは別に何冊か本を抜き出した。
混じらないように積んでおく。
時折メモを見て書名を確認しててきぱきと本を揃えていく。
あとは……。
探す本は少し高い位置にあった。
手を伸ばすが届かない。
踏み台がないと無理なようだ。
踏み台は近くにあるかしら?
その時、すっと後ろから手が伸びクレハが取ろうとしていた本を取った。
反射的に振り向く。
ほぼ真後ろにソウヤが立っており、クレハはまた動揺してしまった。
思わず一歩後ろに下がる。
かつりと踵が本棚の下、少し出っ張っているところに当たる。
「こちらで最後ですか?」
クレハの反応を気にした様子もなくソウヤが訊いてくる。
過剰反応したようで恥ずかしい。
「あ、はい」
「ありがとうございます。こちらも一応は終わりました。本が抜けてないか確認しますね」
ソウヤが背を向けて離れていく。
ほっとした。
それから慌てて彼の後に続く。
読んでいただき、ありがとうございました。




