デート1
何だかんだと丸め込まれてクレハはソウヤとデートすることになった。
何でそうなったかはわからない。
デートに誘われて気づいたら頷いていた。
ということで迎えたデート当日。
先日ライカがしてくれたフルコーディネートで仕度を整えた。
ライカは髪型まで指定していたのでその通りにする。
両サイドの髪をねじって後ろで花の形を模した髪留めで留めてある。
柔らかいレモンイエローのワンピースに同色のローヒールの靴。
若草色の鞄に白い花のモチーフの首飾りだ。
薄く化粧もした。
鏡の前で確認してよしと頷く。
直後、不安になった。
気合いを入れすぎかも。
だって、仕方ない。
クレハはデートに誘われて嬉しかったのだから。
気になる男性から誘われて嬉しくない女性などいない。
だからそわそわしてしまう。
変なところないよね?
ライカの見立てだから大丈夫だろうが、その通りにできているだろうか?
鏡で何度も確認してしまう。
気合いが入りすぎだと笑われてしまうだろうか?
不安になる。
気になる人だからこその不安だ。
少しでも可愛く見られたい。
でも、気合いを入れすぎて空回りするのは嫌だ。
ぐるぐるしていたクレハの視界に時計が映った。
「って、時間!」
時計の針はそろそろ家を出ないと待ち合わせに間に合わなくなる時間を指していた。
最後に忘れ物がないかだけ確認して部屋を飛び出した。
「行ってきます!」
そのまま廊下を駆け、リビングにいる両親に挨拶を投げて外に出た。
扉が閉まる直前、困惑した声で「いってらっしゃい」と返されたのだけが聞こえた。
待ち合わせの五分前には着いたのだが、すでにソウヤは来ていた。
「おはようございます、クレハさん」
「おはようございます。お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いえ、クレハさんは時間前にいらしていますから。私が楽しみすぎて早く来すぎただけですのでお気になさらず」
本当、かしら?
確かに待ち合わせ時間より前に来たけれど。
ソウヤはクレハを上から下まで眺めて微笑んだ。
「今日も先日とはまた違った可愛らしい格好ですね。とてもお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
クレハははにかむように微笑んだ。
嬉しい。
頑張ってよかった。
ソウヤの微笑みが深くなる。
「いつまでも眺めていたいですが、行きましょうか?」
これから舞台を見てその後で昼食を取ることになっている。
「はい」
並んで歩き出す。
「実は今日デートだと知った主が舞台のチケットをくださったのです」
「えっ!」
「演目は我々がもともと観る予定だったものですので安心してください」
王都には三つの演芸場があり、そのうちの一つに今日は行く予定だった。
「そこまで報告するものなのですか?」
「いいえ、そんなことはないのですが、雑談ついでで話してしまいました」
ソウヤの耳が心なしか垂れているように見える。
「でも有り難いですね。お礼を伝えていただけますか?」
どことなく不安そうだったソウヤが安心したように微笑う。
「わかりました。伝えます」
「ありがとうございます」
別に邪魔されたわけではないのだから目くじらを立てるほどのことでもない。
普段よく働いていてくれる部下への労いなのだろう。
クレハはそのおこぼれに預かった形だ。
部下にきちんと目をかけるいい主なのだろう。
クレハは有り難くそのおこぼれに与るだけだ。
そしてそれが正解なのだろう。
「楽しみですね」
にこにこと微笑って告げる。
「はい」
微笑い返してくれる。
それで十分だ。
読んでいただき、ありがとうございました。




