25騙すつもりが
サタリが付いて来ている事を確かめると私は不意に躓いたふりをした。
「きゃぁ~」
身体をグスタフ様めがけて。思いっきり。
「だ、大丈夫かリネア」
思った通りグスタフ様は私を受け止めてくれた。
おかげで二人の身体はぴったりと密着している。
やだ。ここまでするつもりはなかったのに‥
異常に恥ずかしさがこみ上げたが、何しろぎゅっと彼の腕が背中に回されて身動きが取れない。
厚い胸板がシャツの隙間からちらりと見えて。
あっ、もう。ちょっと、そんなつもりじゃなかったのに!!
何とか離れようともぞもぞしてみるが。
「あ、あの、グスタフ様、もう大丈夫です。だから‥離してもらえると‥」
「あっ、すまない‥」
でも、グスタフ様は私を離さない。
その時私の腕を強く掴む感触がした。
もう、サタリったら早すぎない?
「おい、何してる。早くしろ。ったく、使えないな‥」
サタリとは違う低音で野太い声がした。
誰?振り返ろうとしていきなり目を塞がれた。一瞬見えた黒い覆面。
「きゃ‥」声の途中で大きな手で口を塞がれる。
何が起こってるのか分からずもがくが腕をがっしり掴まれ逃れる事が出来ない。
サタリ?いるんでしょう?何してるのよ。早く何とかしてよ。
遠くでサタリの叫ぶ声が聞こえた気がしたが口に布を当てがわれた感触がして意識が遠のいた。
*~*~*
ぼんやりと意識が目覚める。
まだ、雲の上にいるような感覚で目を開けたいのに開けれなくて。
「うぅ‥」
「お嬢さん!!気が付きましたか?」
これは間違いなくサタリの声。
何だか安心する。
ゆっくり目を開くと目の前に心配そうな顔をしたサタリが見えた。
「さ、た、り?」
「お嬢さん?どこか痛みますか?」
すぐに私の手を握ってさわさわと手を撫ぜつける。
温かいか手の温もりで私の気持ちは落ち着いて行く。
「ううん、大丈夫そう」
少し身体を動かしてみるが特に痛みはなかった。
「よかった~、もう、俺、死ぬかと思いました。あいつと抱き合うなんて!!」
えっと‥何の話だったかと脳内で何があったのか思い出してみる。
ああ、グスタフ様に抱きついたらサタリがどんな反応をするかと試してみようと言う話で‥うん?でも、その後恐い男が私の腕を掴んで私は何かを口に当てられてそのまま意識を失ったはず。だよね?
あいつらはどうなったんだろう?
「サタリ、私って誰かに襲われたりしなかった?腕を掴まれて口に布を当てられて意識失った気がするんだけど」
「ああ、あいつらです?瞬殺です。それにグスタフの野郎も一発ぶちかましておきました。あいつドバゴの闇ギルドの奴らに脅されてお嬢さんを連れ去る手助けをしようとしてたんです。聞けばあいつの家ドバゴ公爵に借金があって闇ギルドの下働きをさせられてたんです。その辺のところは会長に頼んであるんできっちり闇ギルドの奴らは捕まるかと思いますのでご安心を」
そう言う事かって。
「どうして私が狙われたの?」
「ドバゴの所の闇ギルドの奴らがお嬢さんを誘拐してうちの商会に金を要求しようとしてた見たいです。まあ、俺がそんな事させませんけど」
「そう、あなたがいて良かった。それで、グスタフ様はどうなるの?」
「まあ、学生ですし脅されて仕方なくって事なので、今回は謹慎処分だけで許そうかって話です。ったく。殺せばよかったか‥」
「サタリ?」
「いえ、まあ、あいつかなり腕っぷしがいいですから騎士隊に入れば役に立つでしょうし」
「じゃあ、騎士隊には入れるのね。良かったわ」
「あいつは学園には来ますけど騎士部にはもう来ません」
「どうして?シグルド様が婚約してグスタフ様まで引退じゃ騎士部のファンが納得しないわ」
「お嬢さん、そんなにショックです?そんなにあいつが好きなんです?俺というものがあるのに?」
サタリ?何言ってるの?
混乱する脳内。




