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日常恋愛オムニバス  作者: 陽ノ下 咲


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33/42

case33.初恋

高校2年生の月城(つきしろ)尚也(なおや)は、幼馴染で恋人の本間(ほんま)みくの事をずっと好きだった。けれど、尚也の中で、みくの事が「好きな子」から「守りたい特別な存在」に変わったのは、あの日。まだ2人が幼かったあの日から……。


幼馴染カップルの、幼い頃の思い出の話です。

ぜひお読みください。

 

 初恋はいつ、と聞かれたら、月城尚也はたぶんうまく答えられない。


 何歳のとき、とか。どんなきっかけで好きになった、とか。そういうはっきりとした瞬間がなかったからだ。

 でも、「気がついたら好きだった」と言うのもまた、正確ではない気がした。



 幼馴染の本間みく。隣の家に住んでいて、物心つく前から一緒にいた女の子。

 家族ぐるみで出かけることも多かったし、同じ小学校、中学校、そして今も高校で同じクラス。

 それがずっと続いてきた。


 物心がついた時には既に、尚也にとってみくは特別な存在だった。なくてはならない自分の一部のような、そんな存在。

 そして、つい最近、やっと「恋人」になった。


 言葉にしてみると、なんだか不思議な響きだ。


 恋人。

 でも気負うような関係じゃない。

 一緒に笑って、気楽に話して、自然と隣にいて。

 それでいて、みくのひとつひとつの行動に、いちいち心臓が跳ね上がる。


 たとえば、今みたいに。


 放課後の教室。夕方の光がオレンジ色に差し込んで、カーテンが静かに揺れていた。

 先生に呼ばれて職員室に行っていた尚也が教室に戻ると、みくが彼の席の隣でうとうとしていた。


「……寝てる」


 尚也は小さく笑って、みくの机の横の椅子に腰を下ろした。


 窓際の光の中で、みくは頬をオレンジ色に染めて眠っていた。


「可愛いな……」


 そっと呟く。

 みくのほっぺたを指でつんつんとつつく。

 自分でも気持ち悪いと思うくらい、顔が緩んでしまっているのが分かる。それでもにやける顔を止められなかった。

 もう、小さい頃から見慣れるほどに見てきているはずのみくの寝顔。

 けれど、何度見ても見飽きる事はなく、何度でも“好き”を更新されてしまっていた。


 みくの事は、ずっと好きだった。

 だけれど、尚也の中で、みくの事が「好きな子」から「一生をかけて守りたい特別な存在」に変わった瞬間がある。

 それは、あの日、あの時から。



 みくは小さい頃から、強くて優しい子だった。


 意地悪な年上の男の子に対しても物おじせずに堂々と立ち向かう姿が、周りの誰からも一目置かれていた。

 自分よりも年下の子や、かよわくていじめられやすい子を庇い、周囲の悪口やからかいをも笑顔で打ち返していた。

 きっと内心では怖いと思う事もあっただろうに、みくは涙を一度も見せなかった。

 その姿を見て、尚也は憧れを抱いていた。


「みくちゃんはかっこいいね」


そう言うと、みくは少し照れくさそうに微笑んで、

 

「なおやはやさしいから、それでいいんだよ」


 そう言ってくれた。


 尚也はその言葉が嬉しくて、同時に少し悔しかった。みくみたいに強くなりたいと思う自分がいた。

 でも、みくのその笑顔が眩しくて、どうしても「守りたい」と言う気持ちを素直に言葉にはできなかった。


 その気持ちが、あんなきっかけで爆発することになるなんて、尚也はまだ知らなかった。


 それは、二人が小学4年生のときのことだった。


 その日は放課後、いつものように学校の校庭で遊ぶ予定だった。

 尚也が校庭を通りかかったとき、何かの気配を感じて足を止めた。

 少し離れた陰から、一つ学年が上の、5年生の男子二人が話しているのが聞こえた。以前、年下の女の子をいじめているところをみくが庇っていたのを覚えている。

 最初は何気ない会話だったが、だんだんとその内容が耳に入ってきた。


「みく、あいつ、うっとーしいよな」


「そうそう、いちいち生意気なんだよ」


「なあ、俺らでこらしめてやらねぇ?」


「おう、そうしようぜ。でも、みく、顔はけっこうかわいいんだよな。……なあ、5人くらい呼んで、みんなでひんむいてやるとか、どうだ?」


「それ、おもしろいな。そうすりゃさすがにあいつもおとなしくなるんじゃね?」


 そう言って笑い合っていた。

 その瞬間、尚也は目の前が真っ白になるくらい、頭に血が昇った。

 何も考えずに、ただ体が反応した。


「みくに、手を出すな!」


 尚也は思わず叫んびながら二人に駆け寄り、後先考えずに思いっきりぶん殴った。

 二人もやり返してきて喧嘩になり、尚也もボコボコに殴られたが、止まらず二人の事をめちゃくちゃに殴り続けた。

 尚也の鋭い眼光と強 激しい意志に、男子二人は恐怖心が湧いたのか、殴る手が止まった。


「おい、もう行こうぜ」


 どちらかが言い、逃げようとする。


「待て!」


 尚也が怒鳴る。二人はビクッとして止まった。


「いいか、みくにゆび一本でもふれたら、ただじゃすまさないからな」


 尚也の声は震えていた。恐怖ではなく、怒りで。

 自分の中に、こんな凶暴な感情がある事を初めて知った。


 一瞬、二人は驚いた顔をして固まったが、少ししてから、恐る恐る声を出した。


「……お前、マジで怖えよ」


「分かったよ、あんな奴もうどうでもいいよ」


 そう言いながら、二人は足早に去っていった。



 その後、先生がやって来て、事情を聞かれた。


 しかし、尚也は黙っていた。もしみくがこのことを知ったら、傷つくんじゃないかと思ったからだ。

 彼女が汚されるようで怖かった。だから、尚也は何も言わなかった。


 保健室で怪我の手当をしてもらっているとき、ドアが開き、みくが静かに入ってきた。

 

 みくは尚也の怪我を見て、ひどく驚いた顔をし、すぐに駆け寄ってきた。


「尚也、どうしたの……そのけが」


 心配そうなその問いかけに、尚也は笑顔を作ろうとした。

 腫れた頬が痛かったが、なんとか笑うことができた。


「なんでもないよ、みくちゃん」


「うそだよ。こんなけが、どうして?」


「ほんと、なんでもないんだ」


 そう言うと、みくが顔をくしゃっとさせた。

 どうしたのかと心配して見ると、みくの目に涙が溢れてきた。

 大粒の涙がぽろぽろとこぼれ、尚也の顔を見つめながら、彼女は静かに泣いていた。


「え、……あれ、ごめん、泣くつもりなんて……」


 そういいながら目の下を両手で擦る。けれど涙は止まる事なく溢れてくる。


(みくちゃん、どうしたんだろう、もしかしてもうあいつらに……?)


 尚也の頭に嫌な予感がよぎった瞬間、みくが口を開いた。


「尚也、お願い。けが、しないで……」


 その言葉に、尚也は目を見開いた。

 心がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。

 どれだけ強い相手を前にしても涙を見せることが無かったみくが、今、尚也が怪我をした姿を見て、こうして自分の前で泣いている。

 そのことが、何よりも心に響いた。


 その瞬間、尚也の中で何かが変わった。

 この子しかいない。みくを絶対に守りたい。


 みくがどれだけ強くても、優しくても、彼女が傷つかないように、そのために自分も強くなりたい、そう強く思った。


 その日学校であった出来事は、みくはもちろんのこと、誰にも一切伝えなかった。

 後日に先生から呼び出されることも無かったので、五年生の男子達も隠し通したのだろう。


(まあ、年下の男子と喧嘩して逃げたなんて、きっと知られたくないよな)


 尚也は、みくの事を隠せれば後は何でも良かったので、それでいいと思った。

 

 今後、彼女が悲しむことは二度とないように、尚也は自分なりに強くなろうと心に決めた。


 そして、それから尚也は、彼女の力になれるような存在になるために、努力を重ね続けてきた。



 そして今、高校2年生になった尚也の隣にいるみくはあの頃と変わらず、いや、あの頃よりもずっと増して、心の芯が強く、そして優しい。


 だからこそ、そんなみくが安心して頼れる場所でありたいと強く願った。



 夕陽が完全に沈み切った頃、みくが静かに目を開けた。


「……あれ……」


 寝ぼけたような声。焦点がまだ合っていない。


「おはよ、みくちゃん」


 尚也はにっこりと微笑む。

 みくは、はっとしたように目を見開いた。


「尚也……」


 そして、一拍置いて、


「わっ、もうこんな時間!?えっ、尚也、ずっと見てたの?」


「うん。可愛かったから、つい」


 尚也は笑いながら答える。

 みくは顔を真っ赤にして、尚也の肩を小突いた。


「もうっ!そう言ったら何でも許されると思ったら大間違いだからね!」


「ふふ、ごめんごめん」


 そう言いながら、尚也は机の上のカバンを取って立ち上がる。


「じゃあ、帰ろうか。……一緒に」


「……うん」


 みくは照れたように微笑んだ。


 階段を降りながら、二人並んで歩く。

 みくが少し口を尖らせて聞いた。


「さっきの、ずっと見てたってやつ。何分?」


「んー、たぶん30分くらい?」


「そんなに!?ばかっ、起こしてよ……」


「でも気持ち良さそうだったから、つい」


 笑いながら階段を降りていく。

 そんな日常が、尚也にとってはたまらなく愛しかった。


 校門の前、秋の夜を感じさせる涼しい風が心地よく頬をなでる。


「ねぇ、尚也」


 ふいに、みくが立ち止まって言った。


「何?」


「……私ね、さっき、小さい頃の夢を見てたよ」


「え」


「私、小さい頃から尚也の事、好きだったのかも。なんでか、尚也の前では素直になれたから」


 尚也は驚いてみくの顔を見る。

 彼女は頬を赤らめながら、尚也を見ていた。


 尚也は、ふっと優しく微笑んだ。


「だったら嬉しい。僕も小さい頃からずっと好きだったから。……でも多分、みくちゃんが僕を好きになってくれた時より、ずっと前からね」


 尚也がそう言うと、みくは少し照れくさそうに、でもとても嬉しそうに、微笑んだ。

 その笑顔が、まだ幼い頃のみくに重なった。


 ふたりは並んで歩き出した。


 後ろから車が来る。

 尚也は自然な動きでみくを抱きしめて車から守る。

 

「あ、ありがと……」


 頬を染めるみく。

 車が去った後も、数秒間みくを抱きしめ続ける。


「あの、尚也……?」


 みくがどうしたの?と顔をあげる。


「ごめん、離したくなくて」


そう言って、みくの額にキスを落とした。


「大好きだよ」


 驚いて、頬を真っ赤に染めるみく。

 尚也はその隣で、ずっと笑っていた。


 幼い頃の記憶も、これまで積み上げてきた思い出も、全部ひとつに繋がって、「今」のふたりを作っている。

 この先、何があっても、ずっと忘れない。


 そして、願わくば一生この距離で、みくのことを守り続けられる存在でありたい、尚也はそう、強く願った。


見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!


本作は

case1.突然のバックハグ の幼馴染2人の話です。


尚也×みくの話のバックナンバー

case1.突然のバックハグ

case4.雨の日の相合傘

case11.どんな君も好きだけど

case17.起こしに行ったその先で

case22.熱を出した日

case28.おうちデート


こちらも合わせてお読みくださると嬉しいです。

ぜひご一読ください。


陽ノ下 咲


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