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 婚約者が過失なのか、何らかの形で愛犬の死に関わっていると信じたくないのだろう。セミロングの髪を振り乱して沖原沙織さんは金森さんに問いかけたが、金森さんは奥歯にものが挟まったかのようなしぶい表情だ。二人の様子を見て兄は首を横に振った。


「いや、北海道犬が死んだのは金森と狩猟に出た時だった。そして猟に出た際に獲物を追って、犬とはぐれた。獲物を仕留めたから肉を持って先に帰ったと言っていたな?」


「ああ……」


 眉間にシワを寄せながら金森さんが頷くと、兄は自分のアゴをつまむようなポーズを取って私や沖原沙織さんたちを見渡した。


「飼い主と共に狩猟に出て獲物を追いながら雪山を駆け回っている内に、犬は主人である金森とはぐれた。空腹の犬は猟銃の音とエゾ鹿の血肉をかぎつけて、金森が狩ったエゾ鹿の死骸を発見したはずだ。そして、すでに解体済みで旨い部位が切り取られていた鹿肉を空腹の犬が発見したら、どうすると思う?」


「ど、どうするって……」


 雪山で倒れている鹿の遺体に、人間が飼っている犬が食らいつくということがあったというのか? 普通だと、ありえない状況である。兄に問いかけられた私たちは言葉に窮した。


「もともと猟犬は獲物の肉を定期的にエサとしてあたえることによって、狩猟犬としての自覚を持ち獲物を仕留めれば旨いエサにありつけるということを学習しながら育てられる。飼われていた北海道犬にも鹿肉が与えられていたはずだ」


「そういえば……。ここで飼っている北海道犬の仔犬は鹿肉をエサにしてるから、すっかりグルメな犬になったって金森さん言ってた……」


「確かに言っていたわね」


 ついさっきも、沖原沙織さんに対して鹿肉のミンチをドッグフードに混ぜて仔犬に与えたと金森さんは言っていた。ここで飼われている犬にとって鹿肉はエサなのだ。


「ここで飼われている犬たちは元々、鹿肉の味や匂いに慣れていた。そして鹿肉が大好物だった。雪山で迷い空腹時に、その大好物が目の前に転がっていたんだ。迷わず食っただろう。そして鉛の弾丸ごと鹿肉を食った犬たちは胃袋に入った鉛弾による、鉛中毒の症状を起こし帰路の途中、雪山で倒れてそのまま死んでしまったんだろう」


「まさか」


 沖原沙織さんは両手で口を覆って信じられないと言わんばかりに目を見開いたが、オオワシと北海道犬のレントゲン写真にはっきりと写る金属片の影。そしてオオワシの体内から出てきた鉛弾の破片、さらに犬の死体を血液検査して鉛中毒で死亡したと獣医が判断したなら、もはや疑いようは無いだろう。


「死んだ三匹の北海道犬はみんな鉛弾の二次被害による犠牲だ。しかも氷山の一角に過ぎないだろう。鉛弾で射殺されて放置されたエゾ鹿の死肉と共に鉛を飲み込んだ野生の鳥獣たちは、人知れず雪の中で息絶えていたはずだ」


「そんな……」


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