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 本来なら長時間いるはずがない地上で動けなくなり、冷たい雪の上で絶命した哀れなオオワシを思い出しながら聞けば兄は私を一瞥した。


「そうだ。そして、次はこれを見てくれ」


 言いながら兄は茶色い封筒の中から複数のレントゲン写真を取り出し、テーブルの上に並べた。非常に分かりやすい真横から撮影された犬のレントゲン写真だ。横以外に腹部を上から撮影したアングルのレントゲン写真などもある。


「このレントゲン写真は、このペンションで飼われていた三匹の北海道犬の物ね」


「ああ。そして、ここを見てくれ」


「え、これって!?」


 犬のレントゲン写真、肋骨に覆われた下腹部を兄が指さしたので見れば、そこにはオオワシと同じような金属らしき白い影が鮮明に写っていた。


「これオオワシのレントゲンに写ってたのと全く同じなんじゃないの?」


「ああ。同じ物だ」


「ねぇ、この金属片って一体……?」


「そいつの正体はこれだ」


 沖原沙織さんが眉を潜めながらレントゲン写真の白い影をにらみつけた時、上着のポケットに手を入れた兄がハンカチを取り出し、ゆっくりとめくる。


 すると白いハンカチの中から黒灰色に鈍く光る、いびつな形の金属片が姿を現した。この形状には見覚えがある。ここに来た初日の晩、エゾ鹿の遺体から兄が見つけた物だ。


 しかし指の爪ほどの大きさで、ごく小さな金属片だ。取り立てて鋭利な破片という訳でもない。少なくともこの金属片が鋭利な刃物となって内臓を傷つけたようには見えない。私が小首を傾げながら考えた疑問を沖原沙織さんも同様に感じたようで、鈍く光る金属片を指さしながら眉根を寄せた。


「それを飲み込んだせいでオオワシやここで飼ってた北海道犬たちが死んだの? でもペットの誤飲は比較的よくある事故なのよ……。こんな小さな小石みたいな異物の誤飲で死んでしまうなんてありえないわ!」


「確かに犬や猫などのペットは異物の誤飲を起こしやすい。通常は即座に死に至る事故はそうそう起こらない。だが、飲み込んだ物が悪すぎた」


 白いハンカチの上に置かれた黒灰色の金属片を見据えながら、兄の黒い前髪が目にかかり顔に昏い影を落とした。もったいぶったような言い回しに痺れを切らしたのは沖原沙織さんだった。右手の平でバン! とテーブルを叩いたのだ。


 食堂内に大きな音が響いた瞬間、テーブルの上に置かれている白磁器のコーヒーカップだけでなく、カウンター付近からこちらを見ていたウェイトレス横塚千香さんの肩や、厨房の中からこちらを見守っていた笹野絵里子さんのポニーテールまでもがビクリと揺れるのが見えた。


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