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「そうそう。織田信長が高級な茶器を集めてたり、豊臣秀吉が千利休にお茶をたててもらってるイメージが強いわ!」


 私は手を叩いて頷いた。大河ドラマなどで織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などの有名な武将たちがお茶を飲むというシーンは必ずと言っていいほどあるし、織田信長が本能寺の変で明智光秀に謀反を起こされ殺害された時、織田信長が所持していた高価な茶器まで戦火の中で一緒に失われてしまったというのを聞いたことがある。


 歴史ドラマなどでお馴染みになる位なのだから、当時の文献などにも戦国武将と茶器、茶文化について記述がかなり残っているに違いない。


「茶については安土桃山時代には織田信長や豊臣秀吉のような武将に好まれたのもあって、広く親しまれていたが実は平安時代の初期、804年には空海と最澄が中国から茶を持ち帰っていた。しかし、当時は日本に茶の文化が定着しなかったようだな……」


「えー。そうなの? なんでお茶が定着しなかったんだろう? 戦国時代には武将たちの間にも浸透してたっぽいのに……」


 戦国武将たちには受け入れられたものが平安時代に広まらなかった原因が分からない。時代が早すぎたということも無い気がするけど……。理由が分からず、私は口を尖らせながら首をひねった。


「空海や最澄の時代だと、茶は嗜好品というよりも異国の薬として捉えられていたというのもあったようだ」


「ああ、異国のなんだかよく分らない薬ってイメージが強かったんじゃあ、確かに浸透しにくかったのかもしれないわねぇ……」


「その後、平安時代の後期に明菴栄西(みょうあんえいさい)という禅僧が、当時は宋という国だった中国に渡って、1191年に茶の種と抹茶の製法を日本へ持ち帰った。明菴栄西が茶の種を九州で蒔いて栽培すると同時に、漢柿形茶壺あやのかきべたのちゃつぼという中国南宋から持ち帰った茶褐色の陶器に三粒の茶種を入れて、京都の北にある栂尾山の高山寺。今の京都市右京区に住む明恵(みょうえ)上人という僧に贈った」


「なんで明菴栄西は明恵上人に茶種と漢柿形茶壺あやのかきべたのちゃつぼを贈ったのかしら? 中国の陶器も茶種も当時はすごい貴重品だったんじゃないの?」


「1141年生まれの明菴栄西と1173年生まれの明恵上人は年齢が30歳以上も離れている。年齢的にも宋に渡った明菴栄西が明恵上人を指導する立場だったはず。一方、明恵上人は優秀な僧として知られていて、修行の為に大陸へ行く事を熱望していたが、自身の病気などで大陸への渡航が果たせなかった。明恵上人が渡航を果たせなかった無念さを明菴栄西は知っていたんだろう……。そして当時の明菴栄西は年齢が50歳。鎌倉時代あたりはせいぜい20代半ばが平均寿命だったことを考えれば当時50歳の明菴栄西はすでに高齢だった」


「20代が平均寿命なんて……。今の日本人は平均寿命が80歳以上だってこと考えると信じられないわね」


 現代の四分の一程度の寿命だった時代があったなんて、具体的な数字で聞くと唖然としてしまう。


「まぁな。とにかく、そういう年齢的なこともあり、まだ若い明恵上人に自分の知識を伝えたいという思いもあっただろう。だからこそ、宋から持ち帰った貴重な茶種と漢柿形茶壺を明恵上人に託したのではないかと考えられる」


「明菴栄西は、自分が大陸で学んだ知識や文化を後世に伝えたかったのね」


「そうだろうな。そして、貴重な茶種をもらった明恵上人が京都の深瀬(ふかいぜ)三本木という山中で茶種を植えて大切に育て、栽培した茶葉から抹茶を作って飲んでみたところ。眠気を覚ます効能があり、修行をする際に眠気を覚ますのにも最適な飲み物だという理由で周囲の僧たちにも茶を飲むことを薦めていったそうだ」


「へぇ、コーヒーみたいな受けとめられ方だったのねぇ……」


「抹茶にはカフェインの成分が含まれているから実際、眠気を覚ましてリフレッシュしたい時に飲むのは有効だったんだろう。さらに言えばビタミンCなどが多く含まれている上、ミネラルやカルシウムなども摂取できた。人体に必要な成分が含まれている抹茶を眠気覚ましとして寺で愛飲することで、僧たちは茶が健康的な体づくりに良いことにも気付いたはずだ」

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