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絶賛呪殺されそうな私ですが、愛する人(未定)と幸せになりたいと思います!  作者: 織星伊吹


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24話 思わぬ邂逅

 フレイムリードをたって十日が経過し、わたしたちはすでにプリスウェールド領に入っていた。


「帰り旅は早く感じるっていうけど、本当だね。行きの半分くらいじゃない?」


 気持ち良い季候の中、ぱかぱかお馬に揺られながらわたしは言った。


「おまえらがどれだけ寄り道してたかわかる発言だな」

「楽しそうなルクティーを見ていると、ついね。あれもこれもやらせたくなってしまって」

「過保護幼馴染みと、溺愛王子様……か」


 ジレッド先生が、うんうん頷きながらなんか納得してる。


「……? 何言ってるの先生?」

「いや。俺のことは気にせず、君たちは続けてくれたまえよ」

「このスケベ医者が」

「クレイ、男はみなスケベなところがあるものだよ」

「えぇ! じゃあクレイもスケベなの!?」

「ふざけんな! こいつがが興味持っちまったじゃねえか、ていうかなんでおれに飛んでくんだよ! お前はこいつらの話を聞いちゃダメだ!」

「えぇ~!」


 フレイムリードに向かったときよりも急ぎめだけど、みんなとの旅はとても楽しくて、ルフナを含めた四人で、さらに仲良くなれたような気がする。


 わたしたちはそのまま北西を目指し、かつて遠征隊が休憩を取った森の付近に戻ってきていた。

 道なりに進んで野営の支度をしながら、これからの予定を決める。

 そこで、遠征隊の人たちもまだいるかもしれないし、ひとまずは遠征先だった遺跡を目指すことになった。


 目的地も決まり、各々夕食の支度を始めたとき――、食料調達に向かったはずのクレイが、矢継ぎ早に言った。


「みんな来てくれ。見せたいもんがある」


 クレイに案内されて、わたしたちは道外れのうっそうとした所に移動する。


 そこには、何やら争ったような痕跡が残されていた。


 周囲の草木は所々切断されていたし、細めの枝は薙ぎ倒れている。

 そして、決定的に物騒だったのが――。


「……血痕?」


 付近の草木にべっとりした血が、付着していた。

 クレイがそっとなぞりながら言った。


「渇いてるけどな。これ、だいぶ前だろ」

「人間のものっぽくもあるが……盗賊団アイツらとの戦闘のものでもないな。遠すぎる」


 クレイに続いて、ルフナも見解を述べる。

 確かにこの付近で戦闘はあったけども、距離が遠すぎる。だけど、付近の状況から、野生動物同士の諍いでもなさそう。

 でも、こんな人気のないところに人間の血があるのも不気味だな……。


「……遺跡に急ご」


 少し、イヤな予感がした。

 でも行かないと何もわからない。

 まだ魔石の採取をしている段階なら、遠征隊の誰かが残っているかもしれない。その中に……もしかしたらわたしに呪法をかけた犯人がいるかもしれないから。


 最悪、戦闘になるのかもしれない。

 例え犯人だとしても、暴力じゃなく、対話で解決できれば……。

 うん。まずは、犯人になんでわたしに呪法をかけたのか、聞き出さなくっちゃ。


 自分を鼓舞して、わたしたちは遺跡を目指した。


 * * *


 遺跡に到着したわたしたちは、奥へ奥へと進んでいく。

 道中モンスターは出現せず、遠征隊の誰かと会うこともなくて、ただただ不気味な空洞を、進んでいるだけだった。


 やがて辿り着いた先――広く開けた広場で、わたしたちは発見した。


 隆々とした石壁の至る所にかつて魔石が育っていたであろう痕跡を。

 魔石は大地が育てる。つまりは天然資源の一つ。わたしは、いつも加工後のものしか見たことがなかったから、飛び散った欠片とはいえ、人の手が及んでいない源泉を初めて目にする。


「コイツは……」


 クレイが、魔石があったであろう部分にランタンを掲げる。


「綺麗に刈り取られている。やるじゃないか、プリスウェールドの遠征隊」


 ルフナが感心したように歩きながら石壁をチェックしていく。


「……ここら一帯の使えそうな魔石は、すべて採取されてるな。プリスウェールドの遠征隊にしちゃ、手際が良すぎる。もうちょっと辺りが散乱するはずだ」


 ジレッド先生が地面に転がっている魔石の欠片を摘まみながら、瞳を細める。


「こりゃ……プロの犯行だな」

「遠征隊がやったんじゃないってこと? 先生」

「遠征隊がプロじゃないってわけじゃないが、なんだろうな……もっと凄腕のヤツの手口というかな……」


 そういえば……ニルギムが遺跡に行くとか言っていたような……。

 え。まさか、全部自分一人で回収したってこと? 採取した魔石はどうやって持っていったんだろう。

 まあ、でも今は考えても仕方ないか……。


「遠征隊の人たちが居ないか、探してみようよ」

「この感じだと、誰も居なそうだけどな……」


 辺り一寸は闇だけが広がっている。うんともすんともしない。


 ジレッド先生が頭をボリボリかきながら、眉を顰める。きっと先生は、ここの白魔石を当てにしていたんだ。

 わたしも当てにしてた。うーん……聖火の焔に使う白魔石、どうしようかな。

 頭の中をぐるぐると思考が巡っていく中、視界の端で、なにかが光った気がした。


「……あっちのほう、なんか光ってない?」


 わたしの指差した方向に、みんなの視線が集中する。

 広がった遺跡の隅から、ぼんやりとランタンの明かりのようなものが見える。


「ルクティーはここで待ってろ。おれが確認に行く」


 クレイがわたしたちを手で制す。けど、わたしはその手を退ける。


「イヤ。みんなで一緒に行こう?」

「…………ったく。念のため、戦闘の心得はしておけよ」


 クレイが短く一言ぼやいて、わたしたちは首を縦に振る。

 こちらのランタンは消火し、それぞれ触媒を構えて戦闘姿勢。

 ランタンの光が少しずつ大きくなっていき――簡易テントが張ってあることがわかった。


 ――いる。

 確実に、このテントの中に誰か居る。

 わたしたちはハンドサインを駆使しつつ2:2で別れ、テントの入り口を左右で囲む。


 ――突撃すべきなのか。様子見をすべきなのか。

 少し怖いけど……やっぱり冒険者って、面白いな。

 恐怖心と好奇心のせめぎ合い――それこそが、わたしの憧れる冒険者だ。


 やがて――、窮屈そうなテントの中から、ぬっ――と誰かが出てくる。

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