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5章 15 ビルの告白 7

 私は以前に自分が死にかけている夢をみたことがある。


そしてビリーは私に縋り付いて泣いていた。……どうして私がそんな夢を見たのだろう?


「リア? ……大丈夫か?」


「え、ええ。大丈夫よ。続きを聞かせて」


だけど今は自分の疑問よりも、ビリーの話が先だ。「分かった」とビリーは頷き、再び話の続きを始めた。


「何度、魔塔に戻ってやり直しても上手くはいかなかった。俺が戻った先でのリアは、大抵頑なで誰とも交流を持とうとしない。いつしか回数も数えきれないくらいになった頃には俺の身体もすっかり成長してしまった。もうリアの知るビリーでは無くなっていたんだ。そして俺の前に現れるリアもいつしか年を取った姿へ、変わっていたんだ……」


「!」


その言葉にピクリとする。

そう言えば私は時を戻る前に、今目の前にいるビリーとそっくりな青年に何度か出会った記憶がある。

いずれも彼は妙に人懐こく話しかけてきたけれど、私は一切相手にしようとはしなかった。


「魔塔の人達に何度やり直しても失敗するのは、魔力が足りないからじゃないかと指摘されたんだ。そこで俺は魔塔に留まり、魔術を身に着ける鍛錬を始め……様々な魔法を使うことが出来るようになった。どんな魔法なのかは……リア。もう知っているだろう?」


「ひょっとして、一瞬で畑を耕したり、家を建てたりするようなこと……?」


「それに温泉を作ったこともね。俺は炎系の魔法が得意だから」


「え? それじゃ……あの温泉は……?」


「あの付近には源泉なんかない。俺が魔法で作りだした温泉だ。温泉が好きなリアの喜ぶ顔が見たかったんだよ」


まさかあの温泉がビリーの作り出した物だったなんて……。


「……そうだったのね。ありがとう」


「そしてもう一つ……俺は魔道具を作り上げた。これが今のリアに会うために一番重要なアイテムだったんだ」


「重要なアイテム?」


首を傾げると、ビリーはテーブルの上に置いた懐中時計を指さした。


「あの時の懐中時計……」


「これは俺の魔力と、魔塔にいる全員の魔力を注ぎ込んで作り上げた……時を巻き戻す時計なんだ……」


この世界に、そんなすごい魔道具があるなんて……。だけど、私は実際にこの懐中時計によって60年もの時を巻き戻ったのだ。


ビリーは懐中時計を握りしめると、話を続けた。


「俺が今の姿に成長した頃にはこの世界に戻るたびにリアは老いていった……。もうあまり時間は残されていなかったんだ。何しろ60年の歳月が流れてしまっていたからだ。この時計が完成して、すぐに俺はリアのいる『ルーズ』の村に戻ってきた。そして村の人々の記憶に少し暗示をかけさせてもらった。俺は以前からこの村に住む若者だという暗示をね。怪しまれない為にはそうせざるを得なかったんだ」


「催眠暗示……?」


そうだ……言われて見れば、気付いてみればビリーは村にいた。父親と一緒に暮していることになっていたけれど、誰もビリーの父親に会ったことが無い。それでも私を含め、村人たちは何も不自然に思ってはいなかった……。


「村にやってきたあの日……重そうな野菜を運ぶリアに声をかけた時は本当に緊張した。自分が村全体にかけた暗示が本当に効いているのか心配だったからね。だけど、リアは俺を見ても、疑うことなく会話をしてくれた。それで決心したんだ。懐中時計を渡して……60年前に戻ってもらおうって。きっと今目の前にいるリアなら、子供の頃に俺を愛してくれたリアになってくれるだろうと思ったから……」


ビリーは目に涙を浮かべ、私の手を握りしめてきた——


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