5章 10 ビルの告白 2
「俺が森で消えた真相を話すよ。あの日大人たちは森で次々と獲物を仕留めておいったけど、俺は一匹も仕留めることが出来ずに焦っていたんだ。大人たちは、まだ子供だし、弓の扱いも慣れていないんだから気にすることは無いって声をかけてくれたけど……俺はイヤだった」
ビリーはテーブルの上に置いた両手を強く握りしめた。
「孤児になってしまった俺を助けてくれて、家族として面倒を見てくれるリアの力になりたかった。俺は本当に無力な子供でリアのお荷物だったから。どうしても役に立ちたかったんだ」
「ビリー……そんなこと、考えていたの?」
コクリと頷くビリー。
「森に現れる動物は猪や鹿、それに素早く飛び立ってしまう鳥ばかりだった。矢をつがえている間に、動物たちは逃げてしまって……焦りばかりが募っていた」
淡々と語るビリーの目はどこか遠くを見つめていた。
「そのとき、前方にウサギが見えた。ウサギは俺の姿に気付いていなかったし、他の動物たちに比べて動きが遅い。俺にも仕留められるような気がしたんだ。そっと近づいたつもりだったけど、気づかれてしまってウサギが逃げ出した。だから大人たちにウサギを見つけたと言って、後を追ったんだ」
「それで……?」
「ウサギを追いかけたけど、途中で見失ってしまった。気付けば、大人たちとはぐれていて、自分が何処にいるか分からなくなってしまったんだ。あの時は……本当に心細かった……」
ポツリと呟くビリー。
「何とか森を抜け出そうと彷徨っていたら、突然目の前に黒いモヤのようなものが現れたんだ。しかもどんどんモヤは大きくなっていく。俺は……恐怖で足がすくんでしまい……代わりに手にしていた弓の道具をモヤに向かって投げつけた。けれど、そんなことをしても無意味だった。モヤはどんどん大きくなってこちらに近付いてきた。その時、恐怖よりも逃げなければと言う本能が勝ったのかな。足が動いたんだよ。それで背を向けて、急いで逃げたのだけど……」
ビリーの顔が悲し気に歪む。
「俺は……モヤに飲み込まれてしまった。そして気付いたら見知らぬ場所にいたんだ。周囲は真っ白な世界で……目の前には見たことも無い円柱の建物がそびえ建っていた……」
「それって……? もしかして……?」
「そう、魔塔だよ。入り口は開放されていて、周囲は真っ白な世界。怪しい建物だとは思ったけれど、どうすればいいのか分からなかったからとりあえず中に入ることにしたんだ。誰か人がいればここが何処か尋ねて、帰らせてもらおうかと思ってね。入ってみると、ローブ姿の大勢の大人たちが待ち受けていて、皆俺を見て驚いていたよ。どうやら子供がここへ来たのは俺が初めてだったらしい」
「その人たちはビリーが子供だと分かったうえで連れてきたのでは無かったの?」
私の質問にビリーは首を振った。
「……そうじゃないんだ。魔塔自体が意思を持っていて、魔力の強い人間を引き寄せていたらしいんだ。中にいる限り、年を取ることも無い。魔塔は世界の均衡を保つために必要な存在で世界各地に点在している。常に魔力を供給し続けていないと力が弱まり、この世界に災害をもたらすことに繋がるそうだ。だから彼らは魔塔で暮らし、自分の魔力を分け与えているんだよ。衣食住と、永遠の命。それに魔法や魔道具の研究と引き換えにね」
「そんな……それでは、彼らは皆自分を犠牲にして、魔塔で暮らしてるの? 自分の魔力を魔塔に捧げる為に……?」
それでは、あんまりな話だ。
「いや。それがあながちそうでも無い。魔塔にいた人たちの殆どは自分から望んで暮らしていたんだ。俗世を捨てて、一生を魔術の研究に捧げたいと思っていた大人たちが殆どだった。彼らは皆、今以上の力を望んでいて……それで魔塔に引き寄せられたみたいなんだ。俺もあの時、少しでもリアの役に立てるような存在になりたいと強く願っていたから……」
「だから……魔塔に引き寄せられてしまったのね……?」
私の目に、再び涙が浮かんだ――




