5章 7 ビル 6
「で、でも待ってよ! ビルはどうしてビリーが魔塔にいないって言いきるの!? だってあの子が森で神隠しに遭ってからずっと、貴方はこの家にいたじゃない! いい加減な事言わないでよ!」
ビリーを失ったことで、精神が参ってしまった私のことをビルはずっと気にかけて常に私の傍にいた。そもそも魔塔になど行けるはずも無いのだ。そのことは私自身が良く知っている。
ビリーが魔塔にいるかいないかなんて、知るはず無いのだ。
「落ち着くんだ。リア。確かに魔塔には行っていないが、俺には分かるんだよ」
「どうしてそんな嘘を言うの? そんなに私を魔塔へ連れて行きたくないの!? もし魔力が無い人間があの山脈を超えられないって言うなら、ビル! あなたがビリーをここへ連れて来てよ! お願い……ビリーに会いたいのよ……」
いつしか私は泣いていた。
一時はビリーのことを諦めようと思ったこともあったけど……やっぱり諦められない。
「だって私……今度こそビルを幸せにしてあげようって決めたのに……」
口にした瞬間、違和感を抱いた。
私、今なんて言った? 今度こそビルを幸せにって……これでは以前にもビルを幸せにしようとしたことがあるみたいだ。
「な、なん……で……?」
心臓の鼓動が激しくなる。
「リア……混乱しているようだな? 大丈夫か?」
まるでこうなることが分かっていたのか、ビルが私に声をかけてきた。
「分からない……でももしかして私、どこかおかしくなっているのかもしれない。だって……こんな話、信じられないかもしれないけど時々身に覚えのない記憶が頭に浮かぶ時があるのよ……。それともこれは夢で見た記憶なのかも……」
頭を抱えていると、ビルが謝ってきた。
「リア……ごめん。こんなことになったのは俺のせいだ」
「……え? どういうこと……?」
何故私に起きている異変がビルのせいになるだろう?
「家に帰ってから話をするよ。ここでは影響が出やすいから。……立てるか?」
ビルは立ち上がると、私に右手を差し出してきた。
「え、ええ……」
ビルの手を取ると、力強い腕で引き上げられる。
「それじゃ、帰ろう? 歩けるかい?」
ビルが尋ねてきた。
「大丈夫……歩けるわ」
その顔は……遠い昔の記憶で、見たことがある気がした――
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暖炉の火を消して行ったので、家の中はとても冷え切っていた。
「寒いだろう? すぐに火を点けるよ」
ビルは暖炉に向かってパチンと指を鳴らすと、一瞬で暖炉に火がついて赤々と燃え始めた。
「……すごい」
思わずポツリと呟くと、ビルが言った。
「オーロラの光を浴びると、魔力が強まるんだよ。だから魔塔はオーロラが現れる場所にあるんだ」
「それで、この村の近くに魔塔があるってことなの?」
「……そうだよ」
ビルは返事をすると、リビングを出ていく。
「ビル、待って! 何処へ行くの? 私に話すことがあるって言ってたじゃない!」
慌ててビルの後を追い、彼の服の袖を掴んだ。
「身体が冷えてしまっただろう? 今何か温かい飲み物を持ってくるよ。リアは暖炉の前で温まっているといい」
そう言ってビルは私の頭を撫でてきた。
「……分かったわ」
返事をするとビルは笑みを浮かべて、台所へ行ってしまった。
そこで私は暖炉の前に揺り椅子を移動させて座ると、ビルがリビングに戻るのを待つことにした――




