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5章 6 オーロラの下で 2

「リア、あの山脈を超えた先には何があるか知っているか?」


不意にビルが尋ねてきた。


「え……? あの山脈の向こう……?」


言われて見れば、60年この地に住んでいたのに私は山脈の向こうに何があるか知らない。あの山脈は人が超えられない程困難な山で未開の地なのだ。


私は少し考え、答えた。


「未開の地があるのでしょう?」


そこにビリーがいるかもしれない。だから私は雪が溶けたら……あの山を越えようと思っているのだから。


「未開の地か……。確かにそうとも言えるかもしれないな。あの山脈を超えた先には魔塔があるんだ。魔力が強い者は周期的に呼び寄せられる。誰もが簡単に行ける場所じゃ無いのさ。だから普通の人達には知られていない。俺は……魔塔からこの村へ来たんだ」


「魔塔が……?」


その話に驚いた。

ビルが魔塔から来たと言う話もそうだが、もっと驚きなのは誰もが簡単に行ける場所では無いと言うことだ。


「リア。雪の季節が終わったら、俺に家を出て行って欲しいと考えているだろう? ビリーを捜しに行くのに、俺が居たら不都合だからか?」


「な、何故それを……?」


「温泉が出来上がった夜、ベラさんと話をしている会話が聞こえてしまったんだ。俺も隣で温泉に入っていたから」


「え!?」


そんな……! まさかビルに話を聞かれていたなんて……!

するとビルが慌てた様子で言った。


「だが、これだけは信じてくれ。決して盗み聞きしようとしていたわけじゃない。本当に偶然聞こえてしまったんだよ」


「……分かってるわ。ビルがそんな人じゃないってことくらい……」


オーロラは今も色鮮やかな天体ショーを繰り広げている。凍てつくような寒さの中で話をしているはずなのに、ビルの炎の魔法のお陰だろうか? 少しも寒さを感じることは無い。

こんなすごい魔法を使えるなんて……。やはりビルが魔塔から来た話は嘘では無いのだろう。


「リアは雪が溶けたら、あの山脈を上ってビリーを捜しに行くつもりだったんだろう?」


「ええ、行くわ。今の話を聞いたら尚更行かないと。だってビリーは魔力を持っていたから神隠しにあったのでしょう? その神隠しというのは魔塔に連れていかれたってことなんじゃないの? あの山脈を超えればきっとビリーに会えるはずよ」


もうここまでバレているなら今更隠し立てなんてしてもしようが無いだろう。


「……」


けれどビルは悲しげな顔をするだけで返事をしない。だから私は続けた。


「普通の人間では、あの山脈を超えられないと言ったでしょう? でもビル。貴方は違うわ。だって魔塔から来たのだから。お願い、私を魔塔へ連れて行って! ビルなら私を連れて行くことが出来るでしょう!?」


「……無駄だよ、リア」


ビルは首を振った。


「無駄って……? それってどういうことなの……?」


尋ねる声が震えてしまう。


「ビリーには会えない。あの魔塔に行ったってビリーはいないよ。魔塔から来た俺が言ってるんだから間違いない」


「! そ、そんな……!」


ビルの言葉に、全身の血が引いて行くような感覚を覚えた——



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