5章 2 誰かの為に生きること
冷たい風と雪が身体に吹き付けてくる。
凍てつく寒さの中を私は寝間着にストールを羽織った姿で真っ暗な森を目指して歩いていた。
寒い……皮のブーツを履いて出てきたものの、足がちぎれそうなぐらい冷たくてたまらない。カンテラを持つ手は凍えて震えが止まらない。
森の奥からは風に乗ってビリーが私を呼ぶ声が聞こえてくる。
『お姉ちゃん……何処? 怖いよ……寒いよ……僕を助けて……』
ビリーが私に助けを求めている。早くビリーのもとへ行かなくちゃ。
「待っていて……ビリー。今、お姉ちゃんが……助けに行くから……」
雪交じりの冷たく吹き付けてくる風は容赦なく私の体温と体力を奪っていく。
段々意識が遠くなっていき、自分が今歩いているのか雪の上に倒れているのかも分からなくなっていた。
「ビリー……」
もう、これ以上一歩も動けない……。
最後に意識を失う瞬間、ビリーが私の方に向かって駆け寄って来る姿を見ながら目を閉じた——
あぁ……やっぱり、ビリー。貴方はそこにいたのね……?
「リアッ!! しっかりしろ!! リアッ!!」
ビリー……リアじゃないでしょう?
私は貴方のお姉ちゃんなのだから、お姉ちゃんて呼ばないと。
誰かに抱き上げられた気配を感じながら、私の意識は完全に闇に落ちた——
****
私は夢を見ていた。
そこは何も無い真っ白な世界で、私はビリーを思って泣いていた。すると何処からともなくビリーの声が聞こえてきた。
『お姉ちゃん……』
『ビリー!? ビリーなのね? 何処にいるの!?』
『お姉ちゃん、もうあまり悲しまないで……僕はいつだって、お姉ちゃんの傍にいるから……例え外見が変わってしまっても……』
『外見? 一体何を言ってるの? おかしなことを言ってないで姿を見せて!』
『ごめんね……お姉ちゃん……でも、早く目を開けて……僕……待っているから……』
徐々にビリーの声が遠くなっていく。
『待って! ビリーッ! お願い、行かないで! 戻って来てー!!』
****
「ビリー……」
その時。
「リアッ! 意識が戻ったのか!?」
突然強い力で抱き寄せられ、驚いた。
何故なら私はベッドの中でビルに抱きしめられていたからだ。何故自分がこのような状況に置かれているのか、さっぱり分からなかった。
戸惑いながら、私を抱きしめているビルの顔を見上げた。
「あ……そうだよな? こんな状況じゃ驚いて当然だよな? だけど……仕方なかったんだ……」
そしてビルはポツリポツリと話し始めた。
夜中、部屋に扉がきしむ音が聞こえて目が覚めたら部屋の扉が開け放たれたままで私が眠っていたベッドがもぬけの殻になっていた。
慌てて階下に降りてみると戸口が開きっぱなしで、雪の上に私の足跡が点々と残っていた。そこで足跡をたどり、雪の上で倒れている私を発見したそうだ。
「助けた時、リアは全身が冷たくなっていて……死んでしまっているのではないかと思ったけど、かすかに息をしているのが分かって、すぐに家に連れ帰ったんだ。冷え切った身体を温めるにはこうするしかなかったんだ。でも‥…本当に……良かった……リアが助かってくれて……!」
ビルの目に涙が浮かび、再び私を強く抱きしめてくる。
「……」
ビルの胸の鼓動を聞いていると、心が落ち着いてくる。
もしかして夢の中のビリーが言った『待ってるから』という言葉は、ビルのことを差していたのだろうか?
「頼む……ビリーがいなくなって辛いのは分かる。だけど、命を粗末にするような真似は、もう2度としないで欲しい。どうか俺の為に……生きてくれないか……?」
ビルの身体が震えている。そして、私の肩に熱い物が落ちてきた。
まさか……ビルの涙……? 彼が泣いていることに気付き、胸が締め付けられそうになる。
私なんかの為に泣かないで欲しい……。
ビルの背中に……そっと手を回した――




