4章 10 村の秘密 1
「ビリー……」
暖炉の前でビリーのことを考えていた。
もう11月。
外はとても寒かった。これから本格的な冬が訪れる。雪も沢山降り、『ルーズ』の村は完全に雪に閉ざされて、雪解けの季節迄孤立してしまう。
極寒の地で10歳の子供が森で迷ってしまったら、とてもではないが生きていられないだろう。
「神隠し」とビルは言っていたけれど、そんな現象が本当にあるのだろうか……?
そんなことを考えていると、ビルが部屋に戻ってきた。
「リア、ちょっといいか? 村の人達がリアと話がしたいって訪ねてきているんだ。村長さんも来ている……。辛い状況にあるのは分かっているけれど、皆の話を聞いてみないか?」
「村の人達と話を……?」
誰とも今は口を利く気になれなかった。けれど、もしかするとビリーの手がかりが得られるかも……。
「どうするリア。もし、リアがイヤなら無理強いはしない。皆には帰ってもらうよ」
「……分かったわ。話を聞く……」
するとビルが胸を撫でおろした。
「そうか、良かった。でもその前に、素足では寒いだろう? 今履物を持ってくるから、そのまま待っていてくれ」
ビルは再び部屋から出ていき、すぐに戻ってきた。赤い毛糸の靴下と室内履きを手にしている。
「ほら、これを履くといい」
「ありがとう……」
靴下と室内履きを履くとビルが話しかけてきた。
「それじゃ、村長さん達を呼んでくるよ」
「……ええ」
私は力なく頷いた――
訪ねてきたのは村長さんとカールさん、それに5人の村人達だった。彼らは全員狩の為に森に入っている。
ビルが納屋にしまい込んだままにしておいた長椅子を運び、全員が着席したところで村長さんが真っ先に口を開いた。
「オフィーリアさん……。カールさんから聞いたよ。ビリーが森の中で消えてしまったそうだね?」
「はい、そうです……」
項垂れたまま私は返事をした。
「この村の大切な子供なのに、申し訳ないことをしてしまった。こんなことなら事前にオフィーリアさんに村の事情を話しておくべきだったと、とても後悔しているよ」
「え……? それは一体どういう意味ですか……?」
村長さんの言葉に引っかかり、顔を上げた。
「ビリーは魔力を持っていたのだろう?」
「魔力……?」
一体何を言っているのだろう? でもそう言えば、ビルはマッチも使わずに暖炉に火を点けた。本人もとても驚いていたけど……あれは今思えば、ビリーの魔法だったのだろうか?
「リア……」
ビルは心配そうな顔を私に向けている。
「リアさんは、何故この村に温泉が湧いたり、危険な野生動物が現れないのか知っているかね?」
いきなりの村長さんの質問に、戸惑いながら答えた。
「それは……温泉が湧くのは、ここが火山地帯で……地下水が暖められて、温泉が湧くのでは無いのですか? この村は山脈に囲まれているし、高い山を越えられないから危険生物が『ルーズ』に侵入出来ないって聞いていましたけど……?」
すると村長さんは首を振った。
「いや、それは首都でそう噂されているだけなのだよ。……もっとも、その噂を流しているのは『ルーズ』に住む我々なのだけどね」
「ど、どういうことですか……?」
気付けば、尋ねる自分の声が……身体が震えていた——




