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4章 7 何処にいるの?

 私は不思議な夢を見ていた。


夢の中に出てきたのはビリーだったけれども、様々な姿で私の前に現れた。

『ルーズ』の村で私の弟として暮らすビリー。

何処かの町で貧しい姿のビリーにお金を渡して、ソネットに嫌がらせをするように命じる私。

病で臥せっている私を「死なないで」と涙ながらに看病しているビリー。

時には大人になったビリーを頑なに拒絶して、全く相手にしない私。


他にも色々なビリーが私の前に現れては、霞の様に消えていった……。


「ビリー……」


頬を涙が伝い……徐々に意識が戻ってきた。ゆっくり目を開けると部屋の中は明るく、見慣れた天井が目に映る。


「私……いつの間に眠って……?」


ポツリと呟き、ふと思った。


「もしかしてビリーがいなくなったのは夢だったのかも……」


そうだ、きっと昨夜の出来事は夢だったのだ。ビリーが私を置いて何処かへいなくなるはずがない。


「ビリーッ!」


ベッドから降りると裸足のままビリーの部屋へ向かった。


「ビリーッ!!」


勢いよく扉を開けて、中に入るもベッドの中はもぬけの殻だ。


「いない……? 他の部屋にいるのかしら?」


心臓がドキドキ脈打ち、自分の声が震えている。

大丈夫……あれは夢。ビリーが森で消えたのは悪い夢なのだから。


自分の心に強く言い聞かせ、ビリーに呼び掛ける。


「ビリー……? 何処にいるの? もしかしてかくれんぼでもしているのかしら? だったら、お姉ちゃんの負けよ。お願いだから出て来てちょうだい?」


けれど部屋は静まり返っている。


「もしかして……下にいるのかしら?」


自分が裸足なのも構わず、階下へ降りた。



「ビリー? 何処なの? ビリー?」


最初に台所に向かってみたが、彼の姿は無い。そこでリビングに行ってみると暖炉に火がパチパチと燃え、部屋が暖められていた。


「なんだ……やっぱり、ビリーはいるのね。外にでも出ているのかしら?」


壁に掛けられた時計を見れば、11時を指していた。


「ビリーにお昼は何がいいか、聞かなくちゃ……あの子の大好きな料理を作ってあげるんだから……」


けれど、不安な気持ちが込み上げてくる。

あれは夢なのに。こうして暖炉に火がついているのに……マッチを切らしているから、ビリーじゃなければ薪を燃やせないのに……。


暖炉の炎を見つめながら立ち尽くしていると、扉が開く音が聞こえた。


ビリーだ。ビリーが帰って来たんだ!


「ビリーッ!」


部屋を飛び出したところで、ビルが家に入ってくる姿が目に飛び込んできた。


「え……? ビル……?」


「リア……? 目が覚めたのか!? えっ!?」


ビルは駆け寄ってくると、私の両肩を掴んできた。


「リアッ! 何をしているんだ! この寒いのに裸足じゃないか! つま先が真っ赤になっているぞ!?」


「え……?」


見ると、私のつま先は赤くなっている。どうりで先程から痺れていると思った。


「……っ!」


ビルの顔が一瞬悲し気に歪み、突然抱き上げられた。


「え? ビ、ビル!? 何なの!?」


「このままじゃ足の指が凍傷を起こしてしまう。温めないと」


私はビルに抱き上げられたまま部屋に連れていかれると、暖炉の前に置いた揺り椅子に座らされた。


「リア、今温泉の湯を汲んでくるからここで待っていてくれ。いいな? 絶対に何処へも行かないと誓ってくれ」


ビルは真剣な眼差しを向けてくる。その目は有無を言わさないものだった。


「わ、分かったわ……」


コクリと頷くと、ビルは私の頭を撫でてリビングを出て行った――

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