3章13 ビル 2
「薪割りなら、私もお手伝いしますよ? 1人では大変でしょうから」
ビルの後を追いかけながら話しかけると、彼は笑顔で言った。
「薪割りなら俺一人で充分ですよ。リアさんは別の仕事をして下さい。早ければ来月には雪が降り始めます。そうなると、外に出ることも困難になる。店は閉まるし、市場だって閉まってしまう。買い物も出来なくなりますよ」
「それはそうですけど……でもビルさんだって……」
そこまで言いかけて、はたと気付く。
そう言えば、この村にはビルを知る村人が1人もいなかったのだ。
ビルに畑仕事を手伝って貰ったことを村の人達に話しても、誰も首を傾げるだけだった。
その時のことが思い出される。
「リアさん? どうかしましたか?」
ビルが首を傾げて私を見ている。
「あ……その……い、いえ。何でもありません。では私は台所の仕事をやってきます。薪割り、お願いしてもいいですか?」
「ええ、任せてください」
ビルは笑顔で返事をすると。薪割り小屋へ入っていった。
その後姿を見届け、私はキノコが入ったカゴを持って家へ向かった――
****
――約3時間後
「……よし、こんなものかしら?」
ビルから貰ったキノコをザル一杯に広げて軒下にぶら下げると、頷いた。
調理台の上では火にかけた鍋がコトコト音を立てており、カボチャスープの良い香りが漂っている。
「どのくらい薪割りが終わっているのかしら?」
様子を見に行く為に、薪小屋へ行ってみることにした。
「ビルさん……? ええっ!? こ、これは何!?」
薪小屋を覗いてみるも、彼の姿はない。代わりに足の踏み場も無い程に、薪が山のように積まれている。その高さは天井にまで届くほどだ。
先程迄は、心もとない程度しか薪が無かったのに。
「一体どういうことなの……?」
しかも肝心のビルの姿が見えない。
首をひねりながら、外に出てみたとき。
カーン!
カーン!
家の裏手から何やら大きな音が聞こえてきた。
「あの音は何? ひょっとしてビルさんかしら?」
慌てて家の裏手に周り、思わず目を見張ってしまった。
「ビルさ……ええっ!?」
風車小屋のすぐ傍に人が入れるほどの穴が開いており、お湯が沸きだしていたからである。ビルはお湯が溢れ出さないように周りを石で堰き止めていた。
「あ、リアさん。家の用事は済んだんですか?」
ビルが笑顔で話しかけてきた。
「は、はい……終わりましたけど……あ、あの。これは……?」
「あぁ、これですか? 薪割りの後、風車の様子を見に行ってみると川から湯気が出ていることに気付いたんです。それで掘ってみたら温泉が湧いてきたんですよ。だから石で囲っていたんです。……これでよしっと」
作業が終わったのか、ビルは立ち上がると笑顔になる。
「リアさん、これで冬も温泉に入ることが出来ますよ」
「お、温泉ですか……?」
まさか、家の裏手に温泉が湧くとは思わなかった。小さな温泉ではあったけれども、これほど嬉しいことは無い。もうビルが謎に満ちている人物だとしてもどうでも良くなってしまい、笑顔でお礼を述べた。
「ありがとうございます、ビルさん。ビリーも大喜びします。あの子は温泉が大好きなので」
「リアさんは本当に弟さんを大切に思っているんですね」
「はい、勿論です! あの子は私の大切な家族ですから」
私は大きく頷いた――




