3章12 ビル 1
『ルーズ』の村に越してきて、早いもので1週間程が経過していた。林の木々はすっかり黄金色に染まり、ハラハラと葉を落とし始めていた……。
「う~ん……」
朝食が終わった後、私は畑に出ていた。
「お姉ちゃーん」
すると背後から声が聞こえ、振り向くと手を振りながらビリーがこちらへ向かって駆てくる。
「出掛ける用意が出来たのね? ビリー」
「うん!」
笑顔で尋ねると、ビリーが大きく頷く。
今からビリーは新しく友達になった子供達と、村の共同畑でサツマイモを掘りに行くのだ。
「あら? ビリー。手袋はどうしたの? まさか素手でサツマイモを掘りに行くつもりなの?」
「えっと……それが、この間片方無くしちゃって……」
ビリーが俯く。
「え? そうだったの? どうして言わなかったの?」
「だって……」
「もしかして怒られると思ったの?」
私がビリーに怒るはず無いのに。
「違うよ、 そうじゃないよ。折角お姉ちゃんに買って貰ったのに、無くしちゃったのが悪いと思って……」
「それで言えなかったの?」
するとビリーはコクリと頷く。
「何言ってるの? それ位のことで怒るはず無いじゃない。それよりビリーの手が荒れてしまう方が大変よ。はい、これを使って」
ポケットから農作業用の手袋を出すと、ビリーに差し出した。
「え? いいの? だって、これお姉ちゃんのだよね?」
「いいのよ。ちょっと大きいかもしれないけど、無いよりはずっとましだもの
「でも畑仕事をするんじゃなかったの?」
「違うわ。様子を見に来ただけなの。ほら見て。もうこんなに芽が出てるのよ?」
先週撒いたばかりなのに種は芽吹き、私の足首くらいまでには成長している。
「すごいね~。植物ってこんなに早く成長するものなの?」
「そうね。意外と早いのかもね」
ビリーに嘘をついた。
こんなことはあり得ない。やはり、これは自分を魔法使いと言ったビルの力なのだろうか?
「それより、ビリー。早く行った方がいいんじゃないの? お友達を待たせちゃうわよ。荷馬車で送ってあげましょうか?」
「ううん、大丈夫。1人で行けるよ。それじゃ行ってきます!」
「ええ。行ってらっしゃい」
ビリーは元気よく手を振ると、駆け足で去って行った。
「……行ったわね。でも、この村に来てすぐにお友達が出来て良かったわ」
この村にはビリーと同年代の子供たちが20人程住んでいる。子供の数が少ないので、すぐに打ち解けることが出来たのだ。
今日は夕方までビリーは戻ってこない、私1人だ。
「それにしても、本当にこの畑は一体どうなっているの……? やっぱりビルの言ってたことは本当なのかしら?」
首をひねった時。
「俺がどうかしましたか?」
林の中からカゴを背負ったビルが姿を現した。
「キャアッ! な、何なの!?」
あまりにも突然のことだったので、悲鳴を上げてしまった。
「あ、すみません。驚かせてしまいましたね」
ビルは照れ笑いしながら、こちらへやってきた。
「それは驚いたに決まっているじゃないですか? 突然現れるのですから。一体林で何をしていたのですか?」
「キノコを採っていたんですよ」
ビルが背を向けると、カゴの中にはキノコが沢山入っていた。
「すごい……でも、これって……?」
「勿論、全部食べれますよ。こう見えて俺はキノコに詳しいので。という訳で、全部差し上げます」
ビルはカゴを地面背中から降ろした。
「ええっ!? だってビルさんが林に入って、取って来たキノコですよね? そんなの悪いですから貰う訳にはいきませんよ!」
「いいじゃないですか。キノコは干せば保存食になります。これから冬を乗り切るには必要になるでしょう? それに元々リアさんにあげる為に取って来たのですから受け取ってください」
「わ、分かりました……そこまで言うなら、いただきます。ありがとうございます」
「よし、それじゃ今度は薪割りを手伝いますよ。あれが薪小屋ですよね?」
「え? あ、あの! そこまでしていただくわけにはいきませんよ!」
私が止めるのも聞かず、ビルは薪小屋へ向かっていく。
まるで初めから薪小屋の場所を知っているかの如く――




