表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/99

3章11 他では手に入らない物

「彼は何者だったの……?」


ビルは自分のことを魔法使いと言った。確かに、極まれに強い魔力を持って魔法を使うことが出来る人々がいる。

彼らはとても貴重な人材で各国に配置された『魔塔』と呼ばれる場所で、好待遇な環境で魔法の研究を行っている。

貴重な通信具なども、魔法使いが作り出した物だ。


「王都でもない、こんな辺境の地に魔法使いがいるのかしら……?」


夕焼けの中、遠ざかっていくビルの後ろ姿をぼんやり見つめていた時。


「お姉ちゃーん! 部屋の掃除終わったよー!」


大きな声が聞こえて振り返ると、2階の窓から顔を覗かせて大きく手を振るビリーの姿が目に入った。


「分かったわー! こっちに来てくれるー!」


すると、すぐに窓が閉じられた。


「フフ……きっと、この畑を見たら驚くに違いないわ」


農耕器具を片付けているとビリーが駆け足でやって来た。


「お姉ちゃん、どうしたの……? あ! 畑が耕されている! すごい……一体どうやったの?」


「この畑はね、親切な村の人が耕してくれたのよ」


「そうなの? でもどうやって?」


「さぁ? 私にもそれが良く分からないの。種を取りに倉庫へ行っている間に耕し終

わっていたから」


「種を取りにって……すぐだよね? そんなに早く耕すなんて、信じられないよ。まるで魔法みたいだね」


ビリーは目を見開いて、畑を見渡している。


「そうね、魔法みたいよね。それじゃ器具を片付けるのを手伝ってくれる? 夕食の準備をするから」


「今夜は何にするの?」


「香辛料で焼いた鶏肉を買ったでしょう? あれをフライパンで温め直して、カボチャのスープとパンでいただきましょう?」


「美味しそうだね。僕も手伝うよ」


「ありがとう。夕食の後は一緒に出掛けるわよ」


夕食が終わったら、温泉に行くことにしよう。


「え? 何処へ?」


「温泉に行くのよ。この村にはね、温泉があるの」


「温泉!? すごい! そんなものがあるの?」


「ええ。2人で一緒に入りに行きましょう?」


「うん、楽しみだな~」


夕日の下で笑うビリーの顔は……どことなく、あの青年の面影を宿しているように見えた――



****



――19時


 夕食を終えた私とビリーは温泉に行く準備をすると、荷馬車に乗った。


月明かりに照らされた夜道、荷馬車を走らせていると隣に座るビリーが話しかけてくる。


「お姉ちゃん、空を見て。大きな月だよ」


今夜は満月だった。満天の星空に浮かんで見える大きな月はとても美しかった。


「本当、とても大きいわね~。あ、そう言えばこの村は真冬になるとオーロラが見えるのよ? それはとても綺麗なんだから」


「オーロラって何?」


ビリーが首を傾げる。


「緑や赤といった、綺麗な光のカーテンが空から降りて見えるのよ。色や形が色々変化していくの。見ていても少しも飽きないわ」


「そうなんだ~すごいね! この村って、素敵な物が沢山あるんだね」


「素敵な物……」


確かにビリーの言う通りかもしれない。

王都から最も離れた辺境の地、『ルーズ』。近隣に村どころか町も無いし、無医村。


だけど他では手に入らない素晴らしい物が、この村にはある。


「でもお姉ちゃんて、本当に物知りなんだね。まるで前もこの村に来たことがあるみたいだよ」


「そ、そうかしら? 本で読んだのよ。だから知ってるだけよ」


ビリーの言葉にドキリとする。


「そうなんだ。それじゃ僕も頑張って沢山本を読むよ」


「それがいいわ。ビリー、私達。この村で幸せに暮らしましょうね?」


「うん、お姉ちゃん」


元気よく頷くビリーの頭を、笑顔で撫でた。


―近い将来、ビリーと引き離されてしまうことを知る由もなく――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ