3章8 親切な人々
荷馬車で市場に着くと、村人たちが買い物に集まっていた。
もう村長さんから話を聞いているのか、それとも私達が見かけない顔で珍しいのか皆が一斉に視線を向けてくる。
「お、お姉ちゃん……皆が僕達を見ているよ」
ビリーがしがみついてきた。
「そうね、だからこっちから挨拶しましょう」
「え?」
驚くビリーを前に、私は村人たちに大きな声で挨拶した。
「こんにちは、皆さん。私たちは昨日この村に引っ越してきました! どうぞよろしくお願いします!」
そして笑顔を向ける。
大丈夫、『ルーズ』の村に住む人たちは皆気さくで良い人達ばかり。余所者や新参者を排除するような村では無いのだ。
すると……。
「ようこそ、『ルーズ』へ!」
「こちらこそ、よろしく!」
「何処に住んでいるの?」
次々と村人たちが笑顔で話しかけ、私とビリーは荷馬車を降りて話をした。
そう、これだ。
前回私は村人たちが向けてくれる好意を鬱陶しいと思い、相手にしなかった。それでもここの人達は皆笑顔で接してくれた。
王都で嫌われ者だった私を、ここでは受け入れてくれようとした。それを私は拒絶したのだ。
でも、今回はもう違う。
自分の為にも、ビリーの為にも……そして、この村を救う為にも私は村人たちと良い関係を築くのだから――
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ゴーン
ゴーン
ゴーン……
正午を告げる鐘が村全体に響き渡る。
「あら、もうお昼の時間なのね。今から食事を作る時間も無いから、市場で何か食べ物を買って帰りましょう」
荷馬車に揺られながら、隣に座るビリーに声をかけた。
「うん、そうだね。だけど……」
ビリーはチラリと荷台を振り返る。そこには農機具や野菜の種、肥料等意外に沢山の野菜や果物、小麦の袋などが積まれている。
「本当にここの人達は親切なんだね。まさか、こんなに色々もらえるとは思わなかったよ」
荷台に積まれた荷物の半分は市場に来ていた人々から分けて貰った物ばかりだったのだ。
「ね? 言ったでしょう? この村は本当に皆良い人達だって」
「どうしてなんだろう? 『テミス』の町では……皆、冷たい人達が多かったのに」
ビリーの声はどこか寂しげだった。
「ビリー……それはね、この村は冬の生活は厳しくて大変なの。山脈に囲まれているから雪は深くなって完全にこの村は孤立して、行商人も行き来出来なくなってしまうの。だから村人たちは皆で協力して生きていかないといけないの。だから仲が良いのよ」
「え? そうだったの……? そんなにすごく雪が降るの? 村が孤立するなんて……僕、知らなかったよ」
60年前、初めてここへ来た時の私達も当然知らなかった。だから婆やは冬を越せなくて亡くなってしまった。
そして爺やも……。ちゃんと備えていれば、もっと村人たちと交流していれば2人は死なずに済んだかもしれない。
それでもやはり、高齢で慣れない土地に住む2人には負担な暮らしだったことだろう。だから、今回はおいてきたのだから。
「冬の生活は厳しいけど、今からしっかり準備をしておけば大丈夫。だから出来るだけのことは頑張りましょうね?」
「うん、頑張るよ」
「それじゃ、何処かでお昼でも買って食べたら家に戻って仕事を始めるわよ」
私はビリーに笑顔を向けた――




