3章7 決意を胸に
夫婦が帰った後、私とビリーは家の掃除をしていた。
「ご近所さんが親切そうな人で良かったわね、ビリー」
「うん。でも安心したよ」
2人で雑巾がけをしながら話しかけると、ビリーが頷く。
「何が良かったの?」
「訪ねてきたのが、あの人たちでだよ。変な男の人達じゃなくて良かった」
「どういうこと?」
「もし変な男の人達だったら、僕がお姉ちゃんを守ろうって思ってたんだ」
「え……? まさか、一緒に様子を見に行ったのって……そういう理由だったの?」
「うん。だって僕は男だから! お姉ちゃんを守るのが僕の役目なんだ」
大きく頷くビリー。
「ビリー……」
ビリーの言葉に思わず感動してしまった。けれど……。
「ありがとう、 ビリー。でもね、あなたはまだ子供なのよ? むしろ、私にあなたを守らせてちょうだい」
「だ、だけど……僕……」
「その気持ちだけで十分よ。1階の掃除が終わったら後で市場に買い物へ行きましょうね」
ビリーの頭を軽く撫でると、私は掃除の続きを始めた。
「……早く大人になりたいな……そうしたら……」
ポツリと呟くビリーの言葉を、私は聞えないふりをした。
大丈夫よ、ビリー。慌てなくたって、いつかは大人になるのだから。
それにあと数年で国に大飢饉が訪れる。
絶対、私が守ってあげるからね。この村の人達を含めて。
心の中でビリーに語りかけるのだった――
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掃除を終え、簡単な昼食を済ませた私たちは荷馬車で市場に向かっていた。
「お姉ちゃん。市場には何を買いに行くの?」
隣りに座るビリーが話しかけてきた。
「まずは畑を作りたいから土地を耕す道具と、それに野菜の種も欲しいわ。え~と、ニンジンでしょう? それにカブ、ソラマメにインゲン……。そうそう、小麦も植えましょう」
既に野菜の種は物置に運んであるけれども、それだけでは心もとない。
「うわ~大変そうだね。でも僕、畑仕事頑張るよ。だって、お姉ちゃんの役に立ちたいから」
「フフ、それだけじゃないわよ。鶏だって飼育するんだから。そうすれば数も増やせるし、美味しい卵だって食べられるでしょう? でもその前に大きな鶏小屋も作らないとね。大工さんがいるといいのだけど」
笑顔でビリーに話をするも、内心かなり切羽詰まっていた。
これから数年に渡って続く国を脅かす大飢饉は今から数年後に襲ってくる。
だけど本当に数年後なのだろうか?
『クレイ』の町に着いた時、誘拐事件が発生した。しかし時が戻る前、あの事件は『ルーズ』に移り住んでから起きた事件だった。
もしかして前回とは違う私の些細な行動が、歴史の流れを変えているのではないだろうか?
そうなると大飢饉が来る時期も早まる可能性がある。
そう考えると、今の内から出来るだけ早めに食料を増やして確保しなければ。
それだけではない。
食糧難に陥った王都から兵士たちが派遣され、ことごとく町や村、宿場村が略奪行為にあった。
そして国の最果てにある『ルーズ』まで略奪行為に遭って、多くの村人たちが命を落とした。
だから……今回は村の防衛も行わなければ。
決意を胸に、手綱を強く握りしめた――




