3章6 挨拶
――翌朝
「う~ん……」
眩しい太陽が部屋に差し込み、寝袋の中で目が覚めた。
「もう朝なのね……」
ゴシゴシと目をこすり、隣を見ると寝袋の中でビリーは気持ち良さそうに眠っている。
昨日は忙しくて、台所と今眠っている部屋しか掃除できなかったのだ。
「2人分の寝袋を用意しておいて良かったわ」
これも前回の経験から学んだことだ。
あの時は寝具を用意していなかったので、皆で床の上に寝たのだ。ただ私だけは唯一持ってきていた毛布を使わせてもらったけれども……。
3人には悪いことをしてしまった。婆やも爺やも高齢だったし、チェルシーだって若い娘だったのに。
「さて、まずは……朝食の用意をしようかしら」
私は早速着替えが置いてある部屋へ足を向けた。
エプロンをしめ、髪を後ろで一つに結わえると袖まくりをする。
「さて、それじゃ食事の用意をしようかしら」
けれど引っ越してきたばかりなので、大した食事は用意出来ない。
そこで昨日同様に野菜スープとオートミールのお粥を作ることにした――
鍋がグツグツ煮えてきた頃、目が覚めたのかビリーが台所に現れた。
「おはよう、お姉ちゃん」
「あら、おはよう。ビリー、長旅で疲れていない? もっと眠っていてもいいのよ?」
するとビリーは首を振る。
「ううん。僕沢山寝たから大丈夫だよ。それにお姉ちゃんの手伝いをしたいし」
「そう? ありがとう。それじゃ、スープ皿4枚とスプーンを出してくれる?」
「うん!」
元気よく返事をするビリーの頭をそっと撫でてあげた――
****
食事を終え、2人で後片付けをしているときのことだった。
「すみませーん!」
家の外から大きな声が聞こえてきた。
「あら? 誰かしら?」
「お客さんかな?」
「もしかして、私たちが引っ越してきた話を聞いたご近所の人が挨拶に来たのかもしれないわね」
前回の時も、引っ越し早々近所の人たちが挨拶にやってきた。あの時の私は「田舎者の平民とは付き合いたくない」と言って、婆や達にだけ相手をさせてきた。
それでも、村人たちは私に笑顔で接しようとしてくれていたのだっけ……。
「ビリー、ちょっと外へ様子を見に行ってくるわね」
「僕も行く!」
するとビリーがスカートを掴んできた。
「ビリー?」
「僕も村の人達に挨拶するよ」
真剣な顔で私を見上げてくる。
「そうね。私達、これから2人でずっとここで暮らしていくのだから一緒に挨拶したほうがいいわね」
「うん」
そこで私はビリーを連れて、扉を開けに向かった。
――ガチャッ
扉を開けた瞬間、思わず「あっ」と言いそうになってしまった。
目の前に立っていたのは中年の夫婦。
この夫婦は村の生活に慣れない私たちに色々親切にしてくれた。自分の家で収穫した野菜なども良く持ってきてくれていたのだ。
けれど……国を飢饉が襲った時に、夫婦は飢えで亡くなってしまった……。
「初めまして。私たちはここから5分程の場所に家を構えているカールです。そしてこっちが妻のベラです」
「ベラです、はじめまして」
懐かしさを押し殺し、私も挨拶をした。
「私は、オフィーリアと言います。どうぞ、リアと呼んで下さい。そして、この子はビリー。私の弟です」
「初めまして。ビリーです」
「まぁ。まだ小さいのに、ちゃんと挨拶できるなんて賢い子ね?」
ベラさんはビリーを見て笑みを浮かべる。……そうだった。確かこの夫婦には子供に恵まれなかったのだった。
「実は今朝がたこちらの方角から煙が上がっているのを見て、2人で様子を見に来たんですよ。そうしたら厩舎に馬もいたので、新しい住人が来たのだと思って挨拶に来たんです」
「この辺りは集落から離れているので、少し寂しく感じていました。これからご近所同士、よろしければ仲良くお付き合いしていただけませんか?」
カールさんが照れ臭そうに提案してきた。
勿論私の答えは……。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。仲良くしていただけると嬉しいです」
そして2人に笑顔を向けた――




