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3章4 ここに決めます

 空き家探しは私たちの荷馬車で行くことになり、村長さんが御者を申し出てくれた。


「どのような家が御希望ですかな?」


荷馬車を走らせながら、村長さんが尋ねてくる。

もう住みたい家は決まっていたが、ここでそれを口にするわけにはいかない。


「そうですね……出来るだけ広い家がいいです。2階建てで日当たりが良い場所を希望します。それに畑や家畜も飼育したいので、庭も欲しいですね」


広い家が欲しいのには理由があった。……今はまだ村長さんには明かせないけれど。


「弟さんと2人だけで暮らすのですよね? それでも広い家が良いのですか?」


村長さんは不思議そうに首を傾げる。


「はい。部屋数は多い方が良いです」


「確かに広い家はありますが、市場や民家からは少し離れて不便な場所にあります。2人暮らし用の家なら、手近な場所に何件かあります。そちらはいかがですか?」


確かに、あの家は2人だけでは広すぎるかもしれない。だけどあそこは私にとって大切な思い出が詰まっている場所。あの家で、人生をやり直したい。


国が飢饉に襲われた時、大勢の大人たちが子供を守る為に命を落としてしまった。村には孤児が溢れ、最終的に孤児になった子供たちは死んでいった。

今回、私はこの村を飢えさせるつもりはない。何としても防ぐつもりだが、それでも孤児が出てしまった場合、その子達を保護してあげようと考えている。


これは、あの時私の為に自分を犠牲にして命を落としたチェルシーへの贖罪の意味も込めているのだ。


「大丈夫です。買い物は馬がいるので荷馬車でまとめて買い置きが出来ますから。それに、いずれ家族が増えるかもしれません。そう考えると、広い家なら引越しをする必要もありませんよね?」


私の言葉に村長さんは笑顔になる。


「何と! もしやオフィーリアさんがこの村に来たのは、結婚を考えていたからなのですね!? 確かにこの村の青年は皆気立てが良い者達ばかりですし。若い人が増えるのは良いことです。子供は未来の宝ですからね」


「え? あ、あの?」


何やら酷く勘違いされているようだ。


「お姉ちゃん、もしかして結婚するの?」


それとは対照的にビリーは何故か悲しげな顔をしている。


「そういうことなら、分かりました。丁度良い空き家があるので、今から案内いたしましょう」


「はい、ありがとうございます」


勘違いされているまま、村長さんに空き家へ案内してもらうことになった——



****


日が傾きかけて空はオレンジ色に染まり始めていた頃、その家に到着した。


「こちらの家はどうでしょうか? 隣の民家までは歩くと10分はかかってしまいますが大きな家ですよ。庭は広いし、すぐ傍には小川が流れて、しかも風車があります」


「うわぁ……すごい! 風車がある。僕、初めて見たよ!」


ビリーが興奮した様子で風車を見上げている。

そして私もまた、この家を見て感動していた。


あぁ……60年前に初めて目にした時と同じだ。

風車はちゃんと動いているし、家の壁も綺麗なままだ。


「どうです? 気に入りましたか?」


村長さんが尋ねてきた。


「……はい、気に入りました。ビリーはどう?」


「うん、気に入った。ここに住みたいな」


頷くビリー。


「なら決まりね。私達、今日からあの家に住みます」


目の前の家を指さし、私は宣言した――


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