2章14 廃屋になった理由
夕焼けで町全体がオレンジ色に染まる頃。
私たちは各々武器になりそうな物を手に、町はずれにある廃屋と化した教会へ向かって歩いていた。
その数はおよそ30人程。
話を聞きつけた町の人達が、子供たちの捜索に協力を申し出てくれたからだ。
でもこれほどの大人数なら、確かに頼もしい。
隣りをチラリと見ると、ビリーが真剣な表情で前を見て真っすぐ歩いている。
緊張しているのだろうか? 先程から一言も声を発しない。
「ねぇ、ビリー」
歩きながら声をかけた。
「何? お姉ちゃん」
ビリーが顔を上げる。
「やっぱり宿屋で待っていた方がいいんじゃないの? 何かあったら心配だから」
「だけど、狙われているのは子供ばかりなんだよね? 宿屋で1人でいる方が危ないかもしれないよ?」
「それはそうかもしれないけれど、戸締りして鍵をかけていれば大丈夫じゃないかしら」
するとビリーは首を振った。
「でもお姉ちゃんが心配なんだ。だって、僕は男だからお姉ちゃんを守らないと」
思わずビリーの言葉に感動してしまった。
「ありがとう、ビリー。私も貴方を守るからね」
ビリーの頭を撫で、前を向くと前方にうっそうとした林が見えてきた。
「あの林の先に廃屋になった教会があるのですよ」
すぐ傍を歩いていた宿屋の主人が教えてくれた。
「そうなのですね」
林の奥に教会がある……たしかに人目を気にする誘拐犯たちにとっては、都合の良い場所に違いない。
「皆さん、もしかすると犯人がいるかもしれないので慎重に進みましょう」
私の提案に、周囲の人々が頷いた――
****
林に入ると、私たちは3つのグループに分かれた。
教会に向けてまっすぐ伸びた道を進むのは、猟銃や弓矢を持った若い男性達。
左右の木々に隠れるように進むのは、斧や鍬を携えた女性達や年配の男性達。
私とビリーは宿屋の女性達と同じグループになって、木々の中を進んでいた。
「あの教会は、どうして廃墟になってしまったのですか?」
用心して進みながら、女性に尋ねた。
「はい。これは噂なのですが……昔、あの教会には一人の若いシスターがいたそうです。彼女はこの町に思い人がいました。ですが、彼には恋人がいました。そして、その2人は彼女の前で結婚式を挙げて永遠の愛を誓ったそうなのですが……思いを告げることも適わず、想い人が結婚したことに絶望したシスターは……あの教会で自殺を……」
「! そうだったのですか……」
ビリーは怖いのか、私にしがみついている。
「それ以来、あの教会には亡くなったシスターの霊が彷徨っていると噂が立ち、とうとう閉鎖されたのです。取り壊すこともままならないままで。この町に住む者なら誰もが知っている有名な話です」
まさか、幽霊の話になるとは思わなかった。
けれどそんな話なら誰もが教会に近付かないのは納得できる。
「だとしたら、尚更あの教会が怪しいですね。何も知らない犯人たちなら子供達を隠すのに絶好の場所ですから」
「だけど、そうなると増々子供たちは怯えているかもしれないわ……」
「そうですね、もうすぐ日が暮れます。一刻も早く子供達を助けないと」
私は心の中で祈った。
どうか、まだ子供たちがあの場所にいますように――と。




