2章12 子供たちの行方
「す、すみません! お客様! お部屋は2階の201号室です。鍵はこちらですので、どうぞお使いください。一旦失礼させていただきます、申し訳ございません!」
男性オーナーは私たちに頭を下げると、女性と一緒に慌てた様子で外へ飛び出して行ってしまった。
「お姉ちゃん……」
ビリーが青ざめた様子で私のスカートを握りしめてきた。
「ビリー……大丈夫よ。私が守ってあげるから」
ビリーの頭を撫でながらも内心、焦っていた。
何てことだろう。前回は私が町を出てから起きた事件だったのに、よりにもよってこの日に当たってしまうなんて。
自分のタイミングの悪さを呪った。
「お姉ちゃん……いなくなった子供達って……大丈夫かなぁ?」
ビリーが心配そうに尋ねてくる。
記憶によると、犯人たちは廃墟となっていた教会の地下倉庫に子供達を隠していた。そして真夜中に大きな樽に子供達を入れて荷台に乗せて運び去って行った……と新聞記事に書かれていた気がする。
「ええ、大丈夫よ。だってまだ今は夕方……」
そこまで口にして気が付いた。
そうだ、今はまだ夕方。子供たちが連れ去られた時間は真夜中なのだ。
もしかすると、今ならまだ間に合うかも……。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
ビリーが不思議そうに尋ねてくる。
「ビリー……」
「な、何?」
「一緒に行きましょう!」
「え? お、お姉ちゃん!?」
私はビリーの手を引くと、宿屋の外に連れ出した。すると、大勢の大人たちが集まっていた。その中には宿屋の主人と女性の姿もある。
「困った……いくら探しても見つからないんだよ」
「一体何処へ行ってしまったのだろう?」
「私の子供はまだ5歳なのよ!? 遠くへ行けるはず無いわ!」
「うちは2人もいなくなったんだぞ!」
声を荒げる人や、すすり泣く女性達に思い切って私は声をかけた。
「あの……皆さん、少しよろしいでしょうか?」
「うん? 誰だ? あんたは」
帽子をかぶった男性が私を見つめる。
「この方は、宿屋に泊まりに来たお客様だよ」
宿屋のオーナーが説明すると、別の男性が睨みつけてきた。
「見ての通り、今取り込み中なんだ。話は後にしてくれないか?」
「お客様。申し訳ありませんが、今はお部屋でお待ちいただけないでしょうか?」
申し訳なさそうに声をかけてくるオーナー。
私は周囲を見渡し、彼らに尋ねた。
「皆さん、この町に空き家はありませんか? そこで遊んでいて、何らかのはずみで開かなくなってしまったりとかは無いでしょうか?」
いきなり核心に触れては用心されてしまうかもしれないので言葉を濁す。
「空き家なら当然探した。けれど、子供たちは何処にもいなかったぞ?」
「真っ先に捜すに決まっているじゃない」
「では空き家以外で今使われていない建物はありますか?」
もう一歩踏み出す質問をしてみた。
「そうねぇ……古びた教会はあるけれど、あそこは雑木林に覆われているし、町はずれにあるから子供たちは行かないと思うわ」
「第一、周りに墓があるから子供たちは皆怖がって近寄りもしないさ」
やはり、教会は捜していなかったのだ。
私は確信を得た。
恐らく、子供たちはそこにいるに違いないと――




