2章11 治安の悪い町
――16時半
私たちの荷馬車は次の町『クレイ』に到着した。
「日が暮れる前に町に到着して良かったわ」
荷馬車を走らせながら、周囲を見渡す。やはりこの町は『ラント』の町に比べて全体的にこじんまりしている。
馬車が走る道幅も狭いし、店の規模も小さい。
「この町は前の町よりは小さいね」
ビリーも同じことを思ったのだろう。私と同じ考えを口にした。
「ええ、そうよ。でもここから先はもっと田舎になっていくわよ。町もここで最後だもの。後はずっと村ばかりよ。買えない商品はここで買っておく必要があるわ。でもその前に、まずは宿をとりましょう」
「それじゃ、買い物は宿をとってからだね?」
「いいえ、今日はもう外には出ないわ」
私は首を振った。
「え? どうして?」
「それはねぇ、今日は色々と疲れたからよ」
「そうか……それもそうだね。僕も疲れちゃったし」
「ええ。だから今日は宿屋で過ごして、明日の朝買い物をしましょうね」
「うん、分かった」
無邪気に頷くビリーを見て、心の中で安堵した。
良かった……「疲れた」という理由でビリーが納得してくれて。
実はこの町『クレイ』は、あまり治安が良くない。60年前、『クレイ』で子供が大勢行方不明になる事件が起きているのだ。
人身売買組織による犯行で、子供たちは奴隷として売られてしまった。唯一1人だけが運よく逃げ出すことが出来、犯人が明らかになったのだ。
けれど、売られてしまった子供たちは結局見つかることは無かった。
この事件は当時、新聞で大きく取り上げられて話題になった。
まだ今の段階で事件は起きていないが、この町に滞在している間は用心に越したことはない。
しかもビリーが今一緒にいるのだから。
私の弟となったビリーを絶対に守らないと――
「な、何? お姉ちゃん」
声をかけられ、我に返った。どうやら私はじっとビリーを見つめていたようだ。
ビリーの顔が赤くなっている。
「あ、ごめんなさい。何でも無いわ。ちょっと考え事していただけよ?」
「考え事?」
「そう、今夜の宿の食事は何かなって」
「僕も、今それを考えていたところなんだ。同じだね?」
「ええ、同じね」
私たちは笑顔で会話をしながら宿屋へ向かった――
****
到着した宿屋は、この町で一番高級な宿屋だった。治安の問題を考えると、安い宿に宿泊するわけにはいかない。
「いらっしゃいませ、御宿泊ですか?」
カウンターに立つ男性が尋ねてきた。
「はい。1泊で2人部屋をお願いします」
「かしこまりました。ではお部屋は2階にありますので、今御案内させていただきます」
男性は、にこやかな笑顔でカウンターから出てきたとき。
「あなた! た、大変よ!」
突然、女性が通路の奥から慌てた様子で駆け寄ってきた。
「こ、こら! 今接客中なのが分からないのか!?」
男性は女性を軽く叱責すると、次に私たちに向き直って謝罪の言葉を述べてきた。
「どうも、妻が騒がしくて申し訳ございません。ほら、お前も謝りなさい」
けれど、女性は男性の袖を掴むと声を張り上げた。
「大変よ! 娘が……エミリーがいなくなってしまったのよ! 他にも大勢子供達がいなくなってしまったって……町中が今大騒ぎになっているのよ!」
「何だって!?」
「え!?」
女性の話に血の気が引くのを感じた――




