2章10 村への思い
「ふぅ、これで荷造りは完了ね」
ホテルに預けていた荷馬車に全ての荷物を積み終えたところでビリーが尋ねてきた。
「お姉ちゃん、次は何処へ行くの?」
ビリーの「お姉ちゃん」という言い方も大分慣れてきたようだ。
「次はねぇ、ビリーの寝具を買いに行きましょう」
「僕の……? ありがとう!」
頬を染めるビリー。けれど、次の瞬間顔が曇る。
「どうしたの?」
「う、うん……いつもいつも僕の買い物ばかりしているから、お姉ちゃんに悪いと思って……」
「だから、そんなこと気にしなくていいって言ったでしょう? それにビリーの買い物だけしているわけじゃないのよ? さっきだって本屋さんで自分の読みたい本を買ったんだから。子供はそんなこと気にしなくていいのよ。さて、それじゃ早速寝具を買いに行きましょう」
「うん!」
私が御者台に乗ると、ビリーも隣に座って来た。
「あら、どうしたの? 荷台に乗らないの?」
「うん。僕も荷馬車の動かし方を覚えようかと思って。少しでもお姉ちゃんの役に立ちたいし」
ビリーは恥ずかしそうに頬を染める。
「ありがとう。それじゃ出発しましょう。荷馬車はね、こうやって走らせるのよ」
愛馬のロードにつけた手綱を上から下に向けて軽く叩くと、荷馬車はゆっくりとした速度で動き始めた――
****
――午後1時過ぎ
買い物を終えた私たちは荷馬車に乗って次の町を目指して進んでいた。
荷台には、ビリーの為に購入した寝具一式が積まれている。
「お姉ちゃん。寝具を買ってくれて、どうもありがとう」
御者台で昼食のパンを食べながら、ビリーがお礼を言ってきた。買い物をしていたら、お昼を取る時間が無くなってしまったのでマーケットでパンを買ったのだ。
「そんなこと、気にしなくていいのよ」
「でもあんなに沢山……それにブランケット迄買って貰っちゃたし」
「『ルーズ』の村はね、王都からずっと北に位置しているから冬はとても寒いのよ。周囲は山脈に覆われているから雪も沢山降るし。だからブランケットも必要なのよ」
「……そうなんだ。お姉ちゃんは『ルーズ』のこと、詳しいんだね。もしかして行ったことがあるの?」
ビリーが感心した目を向けてくる。
「え? ええ、まぁそうね。行ったこと……あるわ」
時が巻き戻るまで60年間住んでいた……等、当然言えるはずない。
「『ルーズ』ってどんな村なの?」
「そうね。とても田舎で何にも無いところだけど、自然に囲まれていて、とても良いところよ。村の人達は皆気さくで良い人達ばかりだし」
「そうなんだ。お姉ちゃんにとって『ルーズ』は良い場所なんだね?」
「ええ。だからビリーもきっと気に入ると思うわ」
「うん。早く着かないかな~」
「まだまだ先よ。多分馬車で10日間ぐらいかかると思うわ」
その後も、私とビリーは荷台の上で『ルーズ』の村について語り合った。
本当に不思議なものだ。
時が巻き戻る前、初めて『ルーズ』へ向かう道中は憂鬱でたまらなかったのに。
それが今は、笑顔で話すことが出来るのだから。
これも一緒にいるビリーのお陰かもしれない。
隣りで幸せそうにパンをほおばるビリーをそっと見つめた――




