2章4 遠慮は無用
「全く、あの店主ったら最後まで失礼な人だったわ」
プンプン怒りながら荷台に買い上げた品を積んでいると、ビリーがクスクス笑った。
「あら? 何? その笑いは?」
最後の荷物を乗せ終えると、笑っているビリーに尋ねた。
「ご、ごめんなさい。だってさっき、オフィーリア様がお店の人に言った言葉を思い出してしまって……」
「ああ、あれね」
あの時、私は失礼な店員に言い放ったのだ。
『ちょっと! 私はまだ20歳よ! 一体私の何処がお母さんなの!? せめてお姉さんと言いなさい!』と。
「あの後、店員さんがオフィーリア様のことを『お姉様』と言い直していたところがおかしくて」
あれだけのことがそんなに面白いのだろうか? ビリーは今もクスクス笑っている。
「全く、ビリーは本当に笑いに飢えているのね。それじゃ、これからは毎日ビリーが笑顔でいられるようにしていかなくちゃね?」
「え? い、いえ。そんな……僕はオフィーリア様の傍にいられるだけで……笑顔でいられますから」
モジモジしながら上目遣いで私を見る。
「ビリー。あなたって……可愛い事言ってくれるじゃない!」
ビリーを腕に囲い込むとギュッと抱きしめた。
「わ! わ! オ、オフィーリア様!?」
真っ赤な顔になるビリー。
「真っ赤になっちゃって、可愛いわね~」
頭を撫でると、ビリーは何故か口を尖らせる。
「そ、そんな子ども扱いしないで下さい」
「あら? まだ子供じゃない。よし、それじゃ次の買い物に行きましょう。はい、荷台に乗って」
ヒョイとビリーを抱き上げると、荷台に乗せた。
「え!? わ! オ、オフィーリア様!?」
「さて、次の買い物に行きましょう!」
御者台に乗り、手綱を握るとビリーが背後で何やらブツブツ言っているのが聞こえた。
「……だったら良かったのに……」
馬車の走る音が煩くてよく聞き取れなかった。
「何? 何か言った?」
「いえ。何でもありません」
フイとそっぽを向くビリー。その横顔が何となく大人びて見えた。
でも確かに時々ビリーは子供とは思えない大人びた言動をするときがある。
多分背伸びしたい年頃なのだろう。
少しの間に馬車を走らせていると、ビリーが近くに寄ってきた。
「あの、オフィーリア様」
「何?」
「次は何処へ行くのですか?」
「次はねぇ、ビリーの寝具を買いに行くわよ」
「ええっ!? ぼ、僕の寝具ですか!?」
「そうよ。だって『ルーズ』に行ったら、絶対寝具は必要だもの」
すると何故かビリーの表情が暗くなる。
「あら? どうしたの?」
「それは……オフィーリア様に申し訳ないからです……」
ビリーは目を伏せた。
「何故申し訳ないと思うのよ?」
「だって、僕が着いて来なければ服を買うことも寝具を買う必要も無かったのですよね? 僕なんかの為にオフィーリア様に余計なお金を使わせてしまいました」
ビリーはまだ10歳なのに、遠慮ばかりしている。それが哀れだった。多分、今までもずっと周りに遠慮ばかりして生きてきたのだろう。
「全く……いい加減にしなさい。いいこと? もう金輪際、『僕なんかの為に』って言わないこと。子供がそんな気を遣うんじゃないの。こんどそんなこと言ったら、置いて行くからね?」
勿論そんなことするはずないけれど、ビリーは青ざめる。
「え!? 置いて行く!? お願いです! それだけはやめてください!」
「なら、もう二度と言っちゃだめよ? これは私が決めた事なんだから」
「はい、分かりました」
大きく頷くビリー。
「申し訳ないって思うなら『ルーズ』に到着したら、家の為に一杯働いてくれればいいから」
「はい! 僕、一杯働いてオフィーリア様に楽をさせてあげます!」
「フフ、生意気言っちゃって。それじゃ寝具を買いに行くわよ」
私は手綱を握りしめた。
その後――
寝具を買いに行った店でも、私はビリーの母親に間違われてしまうのだった――




