2章3 買い物
「オフィーリア様、この町で何を買うんですか?」
2人で御者台に乗りながら、ビリーが尋ねてきた。
「そうねぇ……」
頭のてっぺんからつま先まで、ビリーの姿を見渡す。
「あの、な、何ですか?」
顔を赤らめるビリー。
「そうね、まずはビリーの服と靴を買いそろえましょう」
「ええ!? ぼ、僕の服ですか!?」
「そうよ、まずは洋品店に行きましょう! この町にはね、お勧めの洋品店があるのよ」
『ラント』の町のことは知り尽くしている。
王都から追い出された挙句、出入り禁止にされてしまった私。大きな買い物は、この町まで来なければならなかった。今ではどこにどんな店があるのか分かっているのだった――
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「着いたわ。この店で買い物をするわよ」
店の前にやって来ると、ビリーに話しかけた。
「ここで……ですか? 何だか随分立派な店ですね」
「そうね。この店は3階建てだから、そう思うかもしれないわよね。でもね、品揃えが豊富だから大きいのよ。別に高いわけじゃないから。靴も帽子も買えるわよ。さ、行きましょう」
ビリーの手を繋ぐと、私は店の扉を開けた。
――カランカラン
ドアにつけられたベルが鳴り響き、ビリーは目を見開いた。
「うわぁ……広い。それに服が沢山売ってる」
店内は所せましとポールが並べられ、ぎっしりと服が吊り下げられて売っている。
「どう? すごいでしょう? この店で靴や帽子なども買いそろえるわよ」
「だけど本当に僕なんかにいいんですか?」
ビリーが私を見上げる。
「何言ってるの、当然でしょう?」
その時――
「どうもお待たせいたしました。お客様」
店の奥から小太りの男性店員が現れ、私たちを見て表情が固まる。
「この子に合う服と靴、それに帽子を見せて貰いたいの」
「はぁ、そうですか……ですが、お客様が買える商品は当店には無いかもしれませんよ?」
そして軽蔑の眼差しで私たちを見つめる。
あぁ……成程。そういうこと。
「あ、あの。帰りましょう。オフィーリア様」
ビリーがオドオドしながら私のマントを引っ張る。
「何を言ってるの? 今日は沢山あなたの服を買うのだから」
すると店員がムっとした様子で口を挟んできた。
「ですから、当店は……」
「あら? 何よ。もしかして私たちに買わせないつもりなの?」
私はバサッとマントをはだけると、鮮やかなドレスが露わになる。
すると、その姿に店員が目を見開いた。
「こ、こ、これは……大変失礼いたしました! どうぞこちらへ!」
途端に店員の態度は卑屈になり、ぺこぺこと頭を下げて先に立って案内を始めた。
「あの……オフィーリア様、これって……」
ビリーが小声で尋ねてくる。
だから私も小声で答えた。
「ね? 人って、簡単に見た目だけで判断するでしょう?」
「はい、そうですね」
私は旅にはおよそ不向きな高級ドレスを着ていたのだ。
周りから舐めて見られない為の、いわば私の戦闘服のようなもの。
尤も、このドレスもいずれは売ることになるだろう。『ルーズ』に行けば、このようなドレスを着るような場は一切なくなるのだから。
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「どうでしょうか? お客様」
麻のシャツにジャケットを羽織、サスペンダー付きのズボン。なめし皮の靴を履いたビリーを前に店員が尋ねる
「そうね、いいんじゃない。今迄試着した服と一緒に全て買うわ」
ビリーは既に10着程試着をしていた。
「毎度ありがとうございます!」
「ええ!? ぜ、全部ですか!?」
嬉しそうに揉み手をする店員に対し、驚くビリー。
「ええ、そうよ。だって気にいったもの」
すると店員が笑顔になり、とんでもない台詞を口にした。
「奥様のお子様にお似合いの服が合って、良かったです」
「は……?」
「利発そうなお坊ちゃまでいらっしゃいますね。お母様」
お、お母様……!?
私は思わず絶句するのだった――




