表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/99

1章12 見過ごせない

――翌朝


なるべく他の使用人達と顔を合わせたくなかったので、チェルシーに頼んで簡単な朝食を部屋に運んでもらった。


「オフィーリア様、本当にこんな粗末な食事でよろしいのですか?」


サンドイッチを運んで来たチェルシーが不思議そうに尋ねる。


「ええ、勿論よ。昨夜はご馳走を食べ過ぎてしまったものだから、お腹が一杯なのよ」


「え……? ご馳走? でもお食事はいつもと変わらない内容だったと思いますが?」


「え? アハハハハ……そうだったかもしれないわね。でも、ほら。これを見て。この卵の美味しそうなこと……ハムだって上質だし、最高に素晴らしい朝食よ」


『ルーズ』では節約暮らしを強いられていた。卵だって近所から分けてもらうので毎日食べることなど出来なかったのだから。


「そうですか? でもオフィーリア様がそうおっしゃるなら良かったです」


私は早速、チェルシーが持ってきてくれたサンドイッチを口にしようとした時。


「あ、そういえばオフィーリア様。昨夜は沢山本をいただき、ありがとうございます。実は『テミス』に嫁いだ姉に、本を貸してあげようと思っているんです。よろしいでしょうか?」


「ええ、あの本はもうチェルシーにあげたものだから好きなようにしていいのよ。でも知らなかったわ。お姉さんが『テミス』に嫁いでいた……なん……て……え!? ちょ、ちょっと待って。今、『テミス』って言った?」


「はい? 言いましたけど? 私にはオフィーリア様より2歳年上の姉がいて、今年『テミス』に嫁いでいったのです」


ニコニコ笑いながら答えるチェルシー。


知らなかった。まさかチェルシーに姉がいて、しかも『テミス』に嫁いでいたなんて。

でもあの当時の記憶を思い出してみれば、確かに『テミス』の町が滅んでしまった話を知った時、チェルシーは気を失ってしまったのだっけ。

それからしばらくの間、チェルシーは隠れて泣いていた。けれど私の前では笑顔を絶やさなかったので、敢えて尋ねなかったのだけど……。


「そ、そうだったのね……チェルシーにはお姉さんがいたのね。知らなかったわ……」


平静を装いつつ、私はサンドイッチを口にした。


「はい。このお屋敷でメイドとして働くまでは、姉と一緒に暮らしていたんです。姉は家事がとても得意なのですよ。あ……申し訳ございません。自分のことばかり話してしまって」


チェルシーが頭を下げた。


「いいのよ。気にしないで……」


食事をしながら、私の荷造りをしているチェルシーの横顔をそっと見つめる。


駄目だ、見過ごすわけにはいかない。このまま何もしないければ、確実に『テミス』は滅びる。

私はチェルシーを二度と辛い目に遭わせないと決めたのだから。

この先『テミス』に何が起こるのか、知っているのは時が巻き戻った私だけ。


私が何とかしなければ……! そのためには――


「ねぇ、チェルシー」


「はい、何でしょうか?」


荷造りの手を休めてチェルシーが返事をする。


「食事が終わったら、少し出掛けてくるわ。悪いけど、その間の荷造りをお願い出来るかしら?」


そしてにっこりと笑った――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ