第十九話 「魔笛」
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Tea time.19
What did Mozart whisper to her?
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ちょっとだけ、このままで――
そう言って、少女は執事の胸に顔をうずめ、僅かに震えながら嗚咽を漏らし始めた。
きっと、従者の知らないところで、『何か』があったのだろう。
もちろん、気にはなる。
だが、聞いて欲しいことであれば、いずれ少女自身が語るだろう。
それに、今彼女が望んでいることは、そんなことではないはずだ。
片方の腕を彼女の背中に。
もう片方を、髪を梳くように撫ぜながら、その小さな身体を抱きしめる。
いつもより、ほんの少しだけ本気で。
随分と長く感じる数分間。
そして、少女が自ら離れる。
「ありがとう、落ち着いたわ。……ごめんね」
かすかに赤くはれた目を瞬かせて、久しぶりの笑顔でそういった。
「いえ、私などでよろしければ――」
ううん、と。
少女は執事の言葉をさえぎる。
「貴方だから、よ。貴方は、わたしにとっては、『魔法の笛』だもの」
「……光栄です」
「うん……」
一度だけ、深呼吸をして。
「お茶にしましょうか。それで……少し、話を聞いてくれる?」
「仰せのままに」
これは、魔法の笛。
これさえあれば、いついかなる時にも、
人の苦難を助け、悲哀を歓喜に、憎しみを愛に変えます。
―― オペラ「魔笛」より




