61回目 バルタの決断
時は少し遡り、我聞達と別れたティムとバルタは帰路についていた。
ティムを迎えに来た使用人頭のメラルダは馬車を伴って来ており、当然だが馬車には御者も乗っているので箱馬車の内部にはティムとバルタ、そしてメラルダが乗っている。
いくつかの確認事項とちょっとした雑談が交わされる車内で、ふと会話が途切れた時、バルタがティムに声をかけた。
「若様、後で少し時間をいただけやせんか? ちょいと話があるもんで」
「話? …………わかった。なら、夕食後にしようか」
「へい」
話ならこの場で、なんて誰も言い出さない。バルタが何についての話があるのかを、ティムが察しているからだ。そして一流のメイドであるメラルダは、主が決めた事に余計な口出しなどしない。
馬車は今の会話など無かったように、また雑談を交えながら帰路についた。
そして多くの使用人達に出迎えられた『ティム』は、自室にて『ティアナ』へと戻る。
男に見えるように施した化粧を落とし、湯浴みをして女性服へと着替えると、その心を落ち着かせて『ティム』と言う仮面を外した。
心を静かにし、閉じていた眼を開いた時。そこにいたのは、美しい一人の少女だった。
「お嬢様、夕食はどちらで取られますか?」
「そうですね、ここでいただきます。メラルダ、付いていてくれますか?」
「はい。側に控えておりますとも」
夕食をすませ、メラルダが淹れてくれた紅茶を飲みながらくつろいでいると、メイドの一人がやって来てバルタが他の部屋で待っていると伝えて来た。
ティアナに話があるとバルタが口にした時から、いや実はもっとずっと前から、ティアナはバルタが何を言い出すのかを知っている。そう、それは我聞のスキルから出てきた『ひのきの棒』が、バルタの欲していた能力を備えていたあの日から。
そしてティアナが来るのを待っていたバルタが口にした言葉は、やはりティアナが想像していた通りの言葉だった。
「お嬢、お暇をちょうだい致しやす」
「…………やはりそうですか。バルタをカラーズカ侯爵家に雇用する条件は『バルタが手掛かりを得るまで』でしたからね。無粋な引き止めはしませんが、理由はちゃんと聞かせて下さい」
「あっしが行く理由はわかっているでしょう。ガモンの旦那でさぁ」
ティアナが、カラーズカ侯爵家を去ると言うバルタに理由を求めたのに対して、バルタは簡潔に我聞がその理由だと語った。
しかしティアナには、それは不十分な回答だった。理由が『ひのきの棒』であるなら理解できるのだが、我聞そのものが理由だとは思っていなかったからだ。
「バルタの目的は、あのダンジョンの攻略でしょう。それにひのきの棒が持つスキルが必要なのは想像できますが、ガモン自身も理由になるのですか?」
「ええ。確かにお嬢の言う通り、あっしの目的だけで考えるなら、ひのきの棒がありゃ十分と思ってやした。しかし、事情が少し変わったんでさぁ」
「事情が?」
「はい。…………実は少し前から、あっしの視界のこの辺にマークが出てやしてね。ガモンの旦那風に言うなら、アイコンとか言うやつでさぁ」
そう言いながら、バルタは左手を少し持ち上げた辺りで、人差し指をクルッと回して見せた。
「それは、フレンド・チャットとは別なのですか?」
「そうですね。何せコイツを意識して開くと、『フレンドクエストを依頼しますか?』って文字が出てきやすからね」
「フレンドクエスト? 初めて聞きますね。しかもバルタが依頼できる…………?」
「ええ、ただ依頼内容は選べないようですがね。ですがこれは絶好の機会だと思いやして」
「バルタが依頼する内容となると、やはり…………」
「……………………ご想像どおりで」
バルタの二つ名と言えば『影纏』だ。しかし実は、冒険者達の一部で陰口のように囁かれているモノがある。それが『呪物収集家』だ。
それは、バルタが呪いに関係するダンジョンにばかり潜り、呪われたアイテムを買い漁り、さらには呪われた武器を使っている事でついた二つ名だ。
バルタをよく知るものならば、なぜバルタがそんな事をしているのかを知っている。そしてバルタが、自身の目的に必要ない呪物の中で、危険の少ない物は物好きな貴族に売り、危険度の高い物はこの世から消し去っている事も理解しているので、陰口を叩く事などない。なのでその二つ名を口にするのは、あくまでも心無い冒険者の一部に留まっているのだ。
「あの『緊急クエスト』は、絶妙のタイミングでやした。その期間内に動けば、ちゃんと間に合うように出来ていた。それにはモンスターの動きはもちろん、ギルドや砦にいる人々の動きや、あっしらの心情すら理解し、完璧に予測しなけりゃああはならねぇ。正しく神の御業ってやつでさぁ」
「確かにそうですね。…………スキルとは、神より与えられし異能力。しかしその中でも、ガモンのそれは異質に過ぎますね」
「ええ。だからこそ旦那に賭けてみたい。それがあっしの決断です」
「…………わかりました。ただし、必ず生きて戻って下さいね」
「もちろんでさぁ!」
『《フレンドクエスト・バルタ》の依頼を出しますか? YES/NO』
バルタの意を汲んだように目の前に広がったその選択肢に、バルタは迷う事なく『YES』と答えた。
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