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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました  作者: 水波 悠
最終章 邪気の国

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旅の終わりとそして

最終話です!

 邪鬼の国から戻る途中、セレフィアと邪鬼の国を隔てる森を一同で抜けて街道を走る。地平線の向こうに太陽が沈み、辺りを真っ赤に染める馬車の中でボクはリゼに尋ねた。


「ヴァル、あれでよかった……ですよね」

「ん? あぁ、気にしてたのか」


 リゼはふっと笑うといつも通りのあっけらかんとした様子で答える。


「あいつはな、きっとこうなることを望んでたんだよ。もしかしたら、キュナを殺され、自分が邪鬼に堕ちることを認めたそのすぐあとにな」


 ボクはヴァルとの闘いの最中に見えたヴァルの心の中をリゼに伝える。


「本当はな、私がもっと前にケリをつけておく問題だったんだ。あの日の夜に、な。でも、ヴァルが生きていたお陰でお前もここまで強くなれた。大切なことを学んだ。そう考えれば、怪我の功名ってやつだな」


 カカカと豪快に笑い飛ばすリゼ。でも、これまでの使命が終わって安堵している感情とともに喪失感があるのをボクはどこか感じていた。


 ***


 ヴェルナードに戻ったのは数日後の昼間だった。ガレドを通じてフローラへと謁見を申し入れると、その日の夕方に時間をとってくれるそうだ。ボク達は一度宿に戻り身支度を整え、改めて謁見の時間に王宮へと集まる。


「イリス……無事でよかった」


 フローラは入ってきてイリスを見つけると同時にイリスの元へと駆け付けぎゅっと抱きしめる。


「あんなことを言ってしまった後にイリスが攫われたから、気が気じゃなくて……」

「ちょっ、フローラ」


 フローラからの言葉にイリスは動揺して何やらボクの方を一瞬振り返るが、何を言われたのだろうか。


「うん、大丈夫、ありがと。でも、ちょっと苦しいかも」


 そういったイリスをようやく解放したフローラは、改めて王の顔をして全員を見渡す。


「みんな、無事で何より……」


 そう言って指先で目元をぬぐうフローラ。


「既にガレドには簡単に報告したが、コウが邪鬼王のヴァルを倒すことでイリスを救い出すことができた」

「では、もう邪鬼の国は……」


 フローラの問いにボクは答える。


「うん、実質的にはなくなったと思ってよいかな。ただ……」

「ただ?」


 ボクは考えていたことを伝える。


「あそこは、邪鬼の国として認めてはどうかなって。幸い、人にとってあそこで得られるものはないし、逆に邪鬼達にとっては穢気が流れ込みやすいあそこは住みやすいところだと思う。お互いに危害を加えない条件でってことにはしたいけど」


 これは、ヴァルと戦いながら考えていたことの一つだった。邪鬼を異端として排除するのではなく、お互い関与するメリットがないのであれば、関与しなければよいのだ。その線引きを、国の力でやる。


「うん、わかった。確約はできないけど、交渉はしてみることにしよう」


 フローラは快諾してくれた。でも、それだけでは終わらなかった。


「交渉のときには、コウにも一緒にいてもらうからね、いいかな? イリス」

「な、なんで私に聞くのよ! 二人で勝手に決めたらよいじゃない!」


 そういって焦るイリスを横目にフローラは微笑む。


「ふふ、その様子なら大丈夫そうだね。うん、わかった。じゃあ、この件は一度国として預からせてもらうね。何かあれば都度相談するよ」


 その後は一同への報酬の話やザイレムへの報告など、事務的だけど大事な話を全員に共有され、合意していく。おそらくだが、フローラはボク達が出ていった後にやらなければいけないこと、決めなければいけないことをまとめさせていたのだろう。相変わらずその手際の良さには頭が上がらない。


「それじゃ、今日のところはこんなところか」


 リゼが両手を上げ、ぐぅーっと伸びをする。辺りはすでに暗くなっていた。


「そうだね、この先のことはガレドとも連携しながら、よろしくね。あと……」


 フローラはそこまで言って改めてイリスを見る。


「あなたのお父様には早馬で連絡しておくけど、二人は一度グレナティスに戻ってあげて。いくら戻ってきたって伝え聞いても、やっぱり顔を見せてあげないと心配するだろうから」


 ボクはイリスと顔をあわせて頷く。


「フローラ、ありがと」


 イリスは頭を下げる。


「よし、じゃあこれで決まりだな! 今日はイリスの救出の成功を祝って、ぱぁーっといこうぜ!」


 リゼの言葉に一同は微笑み、そしてその場は解散する。

 王宮を出る前にイリスがフローラから何かを言われ、イリスが何やら顔を赤らめながら照れたり、怒ったりしていたが総じて楽しそうだったからまぁよしとしよう。


***


 その日の夜は、結局リゼ、イリス、ジーク、エルネアの邪気の国にいった四人と、ガレド、ボク、そして遅れてフローラが冒険者のフリをして駆け付けてくれて楽しい夜を過ごした。


 そして数日後、ボクはイリスと数か月ぶりにグレナティスに戻ってきた。


「戻って、きたね」

「そうね……長かったわ」


 馬車から降りて改めてグレナティスの街並みを見る。太陽が空高くから街全体を明るく照らす。初めてきたときに見た街並みと、建物は何ら変わっていないはずなのに、ボクの目にはこの町が世界で一番幸せな街のように見えるから不思議だ。


 平和な街。イリスが守りたい街が、生活が、たしかにそこにあった。


「ねぇイリス。屋敷に戻る前に、ちょっと寄り道してもいい?」


 イリスは一瞬驚き、こちらを向くがすぐに「うん、いいよ」と頷く。


 ボク達が向かったのは、イリスが前に見せてくれた、街全体が見える丘だった。あの時は夕焼けが綺麗だった。今日はまだ日が高かったが、街並みに降り注ぐ陽の光が空の青さを引き立ててそれもまた違った良さがあった。


「無事に、戻ってきてくれてよかった……」


 ボクはイリスと横に並び、眼下に広がる街並みをゆっくりと眺める。


「そうね、危うく、あんたにちゃんと答える前に死んじゃうところだったわ」


 そう言って顔を上げるイリスと自然と目が合った。濁りのない、透き通った藍色の瞳。僕のことをよく見てくれている、そして僕が大好きな瞳。


「イリスがヴァルに攫われたって聞いて、いてもたってもいられなかった。自分が自分じゃなくなるかと思った。もう、会えないかと思った……」


 イリスの銀髪が風でなびく。陽の光が白く透ける。


「やっぱり、イリスにはボクの傍にいてほしいんだ。この先も、ずっと。今回、改めてそれに気が付いた」

「あのね、コウ。実は、邪鬼の城で気を失っているときに私の中を真っ黒な感情が埋め尽くしていたの」


(きっと、ヴァルがイリスに剣を突き立てた時だ)


 ボクはイリスの話を黙ってうなずいて聞く。


「寂しさとか、羨望、嫉妬、孤独、自己嫌悪。もうほんと、いろんな感情が。でもね、その時に白い光の中で『イリスはイリスのままでいいんだ』って、あんたはいってくれたの。それが、すごい嬉しかった。私はここにいてもいいんだって、そう思わせてくれたの」

「そうだったんだ」

「私ね、ずっと正しくいなきゃ、ちゃんとしてなきゃって思ってた。いや、今でも思ってるところもあると思う。でもね、コウがそばにいてくれたら、私は、私でいることを認められる気がするの。だから、だから……」

 

 そう言ってイリスは胸に手を当てて、少し潤んだ目でこちらを少し見上げる。


「私も、コウの傍にいたい」


 その瞬間、ボクはイリスを抱きしめた。


 鼻をくすぐる彼女の香りで胸がいっぱいになる。イリスの腕が、ボクの腰に回るのを感じる。


「ありがとう、イリス。これからもよろしくね」


 耳元で囁くと腕の中でイリスがこくりと小さく頷く。


 グレナティスの街並みを、柔らかな光が包み込んでいた。


 ***


 ボクは幸せな気持ちと、一方でアグナルにこのことを報告しなければという気負いとをまぜこぜにした感情を胸に、アグナルの館に到着する。ボクらが扉を開けるとすぐに、従者はアグナルの執務室に走っていった。


 そして、執務室の扉を開く前に、アグナルは廊下に飛び出てきてそしてイリスを無言で抱きしめる。


「ちょ、お父様……?」


 突然の出来事にイリスは困惑している様子だった。でも、そんなイリスも可愛いなと思うボクはきっとバカなんだろう。

 アグナルはイリスをようやく解放すると改めてボクの方を向いて頭を下げる。


「いや、すまないね、コウ君。よく、娘を助けてくれた」


 ボクは頷くとアグナルの後ろではセバスチャンがハンカチで目頭を押さえている。


「さぁ、立ち話もなんだ。入ってくれ」


 そう言って執務室のソファに座るように促され、ボクから邪気の国にリゼやジーク達と向かったこと、ヴァルを倒したこと、一方でその後の邪気の国との関係は今後の協議事項であることを説明した。


 すると、先ほどまでの父親の顔から、今度は領主の顔になって話を聞くアグナル。


「そうか……邪鬼の王を倒したとは言え、どこまで邪気側も一枚岩かわからない以上、引き続きセレフィア国としてコウ君の力を借りる場面も多くなりそうだな」

「そうですね。そう言った意味では、今まではグレナティスを中心に動いていましたが、しばらくの間はヴェルナードにいた方がよいかもしれません」


 ボクの言葉にアグナルは頷く。


(さぁ、ここからが本番だ)


「それで、ですね、アグナルさんに折り入って相談があります」


 ボクの声のトーンが変わったのに気が付いたのだろう。アグナルは眉をぴくりとあげ、続きを促す。


(はぁ、胃が痛い……でも、ちゃんと言わなきゃな)


 ボクは心臓が口から出てきそうになりながら、言葉を絞り出す。


「イリスさんにも、一緒に来てほしいんです」

「それは、どういった意味で、かな?」


 アグナルの視線がとたんに厳しくなる。でも、ボクもここだけは負けられない。


「ボクは、この先もずっとイリスさんと一緒にいたいと思っています。だから……」


 その先の言葉がうまくでない。しかし、そこで助け舟を出してくれたのはセバスチャンだった。


「イリス様はどうお考えで?」


 セバスチャンからいきなり問いかけられたイリスだったが、凛として答える。


「私も、コウと一緒にいたいと思っています。だから、私からもお願いします」


 イリスがアグナルに深々と頭を下げるのを見てボクもイリスに倣う。


「ふむ……いいだろう」


 アグナルのその言葉にボクは頭をあげイリスと微笑む。しかし、そう甘くはなかった。


「ただし、一つ条件がある。コウ君、イリスとダイヤモンドランクの冒険者になること。そうだな、三年以内としよう。それができなければ、私は二人の関係を認めない」


 ボクは改めてイリスと顔を合わせて頷く。


「わかりました。必ず、達成してみせます」

「お父様、見ててください。この国最速のダイヤモンドランク昇格をします!」

「いいだろう。二人からの吉報、待ってるよ」

 

 そう言って、アグナルはボク達二人にやわらかく微笑んだ。


 ***


 翌朝、屋敷を出て振り返ると、朝日が昇り始めていた。光が大地を照らし、空の青が新しい一日を告げている。

 ボクはイリスに微笑みかける。


「行こう、イリス。次の冒険に」


 イリスも笑って頷いた。


「ええ――私たちの、“これから”のために」


 二人の影が、朝陽の中へと伸びていく。


 ――忌み子と呼ばれたボクの旅はここで一つの終わりを迎え、そしてまた、新しい物語が始まろうとしていた。


ここまで楽しみにいただけたでしょうか?

きっと、ここまでお読みいただいた皆様だから、お楽しみいただけたのでしょう。

(完結後に最終話だけ先読みしたそこのあなた、もう一度最初から読みましょう笑)


さて、冗談はさておき。

最後に、ちょっと自己紹介もかねてこの作品が生まれたきっかけをあとがきとして書きたいなと。


こうやってWebに公開していろんな方の目に触れてほしいと思う一方で、この作品の生まれたきっかけは「作者の水波自身の内省」が目的でした。


僕は昔から自己肯定感というものが低く、そのために仕事をする上でも自己防衛のために人に強く当たってしまったり、ちょっと自分の価値が危ぶまれると怒りという感情が強く出てきてしまうことがしばしば。

そんな中、コーチングを受ける中で「子供の頃の自分の経験が今の感情を作り出すきっかけになっている」という話を受けました。

僕は殴る、叱るがしつけのデファクトだったいわゆる昭和の父親に育てられました。そしてそれが積み重なって自己肯定感の低い、自分の価値を自分の中に見出すことができない大人になったのだろうと分析しています。

そんな中、僕自身が解決策の一つとして思いついたのが「幼少期の自分との対話を物語の中でしっかりやろう」ということでした。

ついつい現実世界の頭の中だけで考えていると同じところを堂々巡りしてしまう。だったら、作品の中で自分と同じ境遇の主人公を置いて、その主人公を物語という軸に載せながら客観視することで内省できないか、ということを思いついたわけです。

そんなわけで、振り返ってみればちょっとラノベとしては相変わらずスロースタートとなってしまって読者の方には冒頭、少し退屈な作品になってしまったかもしれないなと思うところもありますが、いわゆる長編策をここまで書ききることができてよかったですし、当初の目的である内省も、少しはできたのかなと思っています。


ということで最後になりますがここまで執筆が続けられたのは読んでいただいている読者の方、そしていつもX(Twitter)で絡んでいただいている皆様のお陰です!そしてそれと同時にここまで頑張った自分自身も、この場でちゃんと誉めてやろうと思います、よくやった!えらいぞ自分!


今後の作品についてはもう少しラノベらしいラノベを書きたいなと思いながらもどうしようかなと悩み中です。こんな話が書きたいと思ったタイミングでまた書き始められたらなと思っていますので、またどこかで僕の作品を見かけたらお読みいただけたら嬉しいです!


それでは皆様、本当にここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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