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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました  作者: 水波 悠
最終章 邪気の国

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邪鬼王の誕生


 無常に矢が突き抜け、静寂が訪れた。痙攣が止まったキュナの体を見つめながら、俺の中で何かが音もなく崩れた。


 それを知ってか知らずか、スキンヘッドの馬鹿な男が大声をあげている。


「おい、誰だ!シルフィフォックスを打ったやつは。こいつに打ったやつには今回の金、全部補填してもらうからな」


(こいつを殺しても、また金の話か)


 いつしか、俺の周りを黒い気が覆い、体中に回った麻痺毒もきれいになくなっていた。そして、俺の心が悲しみと殺意で埋め尽くされていた。


「人間は、本当にクズだな」

「あぁ? ってゆか、どうしてお前動けるんだ。それに、この人数でやりあって勝てると思ってんのか?」


 スキンヘッドの男は立ち上がって剣を手にする俺を見ながら怒りの矛先を向けてくる。


「やるっていうならしょうがねぇ。おいお前ら、こいつを血祭にあげろ」


 その言葉と同時に再び周囲から矢が放たれるが、その矢は俺に届く直前で体を覆う黒い気に阻まれる。


「これが、黒の器の力か」


 矢の届かなくなった自分を守る新たな力に少しの驚きを感じる。ごろつきどもは、俺に矢が届かないことを理解したのか各々、剣を手に持ち切りかかってくる。


「さすがに囲まれるのは面倒か」


 俺は地面を蹴ってスキンヘッドと反対側に走る。地を蹴った瞬間、地面がめくれ俺の後を砂埃が舞う。予想外の速度に驚く目の前の男数人を一振りで斬り倒すと包囲網はいとも簡単に崩れ去った。


 背中を気にする必要がなくなると、俺は新しい力を確かめるかのように迫るごろつきをばたばたと斬る。これまで以上に溢れ出る力と、その速さに酔いしれた。


「この力があれば、俺はもう何も失うことはない。力こそが、全てだ」


 辺りに血の海が広がる。

 ……血の匂いが、周囲を染めていた。

 風が止まり、音が消える。

 自分の心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。


「た、助けてくれ……」


 斬られながらも地面に転がって命乞いをする男に剣を突き立てると、誰に教わるでもなく、そこから黒い気を男に送り込む。すると男はびくりと一瞬痙攣したかと思うと、その後体の周囲を黒い気が覆う。


「ふん、これはいい」


 剣を引き抜くと、男の白目が赤くなり、黒い気を纏って立ち上がる。誰かを初めて邪鬼にした瞬間だった。


「命が惜しければ、こいつらを皆殺しにしろ。ただし、あのスキンヘッドだけは俺がやる。手を出すな」


 その言葉に黒い気を纏った男は頷くと、人間離れした速度でこれまでの同胞に斬りかかるのをみやる。雑魚の相手は任せると、俺は後方で奥歯をかみしめ、苦虫をつぶしたような顔をしているスキンヘッドを見つける。


「お前だけは簡単には殺さん」


 風すら置いていく全力でスキンヘッドの背後まで迫り、まずは足の腱を切る。


「うがぁぁぁぁ」


 スキンヘッドはうめき声と共に地面に倒れ、斬られた足に手を当てながら蹲っている。にも拘わらず、取り巻き共はかろうじて剣はその手に握っているものの、恐怖に顔を引きつらせ最早戦意を完全に喪失していた。


「大いなる力の前には、群衆は無力だな」


 目の前に砂にまみれて横たわるスキンヘッドと取り巻きに対して吐き捨てるように言う。


「た、助けてくれ。なんだってする。俺がまとめてきた組織もお前にやる。だから命だけは……」


 その言葉を聞きながら、俺はスキンヘッドの左腕の根本に剣を突き刺す。


 ザクッ


「うがぁぁぁぁ」


 左腕が胴と切り離され、その傷口を今はまだ繋がっている右手で押さえる。


「ふん、左腕がなくなっても、まだ生きたいか?」


 俺の問いにスキンヘッドは怯え切った目で頷く。


「そうか、ではこれならどうか」


 今度は右腕に剣を突き立てる。再び絶叫が辺りに響く。続いて左足、右足の順に斬り落としていく度に生きる意志の確認をするが、やはりそれでも男は生きたいそうだ。


「そうか、そこまで生にしがみつくか。それならよかった」


 俺のよかったという言葉に脂汗を額に浮かべた男は驚いた顔をしている。俺は周囲にいるごろつきに向けて言う。


「これで心置きなく、お前を殺せる。おい、こいつを殺せ」


 目を向けられた男は頭をブンブンと振っている。


「では、お前が死ぬか?」


 その言葉に男は震えながらも覚悟をした目とともに剣を手にし、手足を失い横たわるスキンヘッドの男に一歩、また一歩と近寄る。


「やめろ……やめてくれ」


 嘆願の目で元部下の男にスキンヘッドは命乞いの言葉を口にする。しかし最早恐怖に支配された男は聞く耳を持たなかった。男は両手で剣を持ち、スキンヘッドの胸の上に構えるとそのまま力いっぱい突き立てられた。


 ***


 ヴァルの語りが終わるころ、玉座の間の空気は凍りついていた。

 玉座に持たれたままのヴァルはそこまで話すとふぅと一息吐く。


「その後は結局その場にいた全員皆殺しだ。元々自分の仲間だったやつらを見捨てて自らの命を守ろうとするやつは俺の仲間にいらない。」


 ボクは言葉を失っていた。孤独と戦い、大切な仲間を見つけ、そして殺される。


(それってつまり……)


「だからイリスを……」

「そうだ。お前も大切に思う仲間を失ったとき、はじめて自分の思い上がりと、無力さと、そして絶望を理解するだろう。その時初めて、『力こそが全てだ』と理解できるはずだ」


(言わんとすることはわからないでもない。でも……)


「だったら、仲間で集まって国を守ってたらいいじゃん! なんでわざわざ人間に敵対するようなことをする必要があるの?」


 ヴァルは静かに言い放つ。


「仲間を思うからこそ、だ。」


 そして、拳を強く握りしめた。


「どれだけ自分自身が強くあろうと、全ての環境下で仲間を守り切ることはできない。だから、一番確実なのは、そもそも敵を排除することだ。だから、敵を減らすうえでも、自分自身の力を底上げするためにも、俺はお前みたいな信念があり、地力のあるやつは敵であろうと味方になる意志があるなら大歓迎だ。もちろん、邪鬼として、だがな」


 ボクの中で思考がぐるぐると回る。


 ――できることなら不幸な境遇を持つヴァルを助けたい。

 ――イリスも助けたい。でも邪鬼にもなりたくない。

 ――人間と邪鬼が手を取り合う未来がないのか。


(たしかに、もしボクに圧倒的な力があれば、このすべてが叶うかもしれない。でも、それじゃやってることはヴァルと同じだ……)


 ――そもそも、本当に邪鬼は悪なのか?

 ――そこにある違いは、種族としての違いだけなんじゃないか?


 ボクは邪鬼に堕ちたセレフィア王を思い出す。


(セレフィア王も、国を守るために邪鬼になった。それじゃあ、イリスを、そしてヴァルを助けたいと思うボクも、結局考えていることは邪鬼達と同じってことなのか?)


 考えが堂々巡りをする。むしろ、少しずついっそのこと、邪鬼になってもよいんじゃないかという思いすら浮かんでくる。でも、ボクの中でひっかかる何かが、人でいる意志をかろうじて保たせていた。


「それでも、ボクは邪鬼になるつもりはない、と言ったら……?」


 迷いを十分に含んだ声色だっただろう。その様子に、ヴァルは満足そうに微笑みながら答える。


「それなら、こうするまでだ」


 ヴァルは再び手に黒い剣を創り出すと、何の躊躇もなくイリスの胸に突き立てる。


 ザクッ


 刃物が骨と肉を切り裂く音が玉座の間に響き渡る。イリスの体がその反動でビクッと一瞬痙攣するがそのまま動かない。


「さぁ、どうする? 今ならまだ、お前が邪鬼になりこの娘も邪鬼にしたいと願えばその願いは通じるぞ」


 しかし、ボクの耳にはヴァルの言葉は届いていなかった。


 イリスの胸に突き立てられた黒い刃。

 そして自分は何もできなかったという事実と喪失感。

 そして、ヴァルへの猛烈な怒り。


 その瞬間、ボクの中で、何かが壊れ、何かが目を覚ました。


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