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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました  作者: 水波 悠
第7章 狙われたフェン村

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軍議

 翌朝。冷え込みの残る庭に立ち、ボクは一人で剣を振っていた。


 ザイレム帝国から戻ってからというもの、考えることばかりで頭が煮詰まっていた。無心で剣を振ることで、この胸のざわつきを鎮めていた。


 ひゅっ、と風を切る音の合間を見計らったかのように声がかかる。


 「コウ様。気晴らしに……少しお相手いただけませんかな?」


 振り返れば、そこには木刀を手にして背筋を伸ばしたセバスチャンが立っていた。


 「セバスチャンさんから手合わせをお願いされるなんて、珍しいですね」


 俺が苦笑すると、セバスチャンは穏やかな笑みを返す。


 「ええ、少し体を動かしてみたくなりましてな」


 俺は二つ返事で頷き、二人で道場に並んだ。


 木刀を構え、互いに息を整える。


 「では、いきます!」


 一礼と同時にボクは一声かけてセバスチャンへと斬りかかり、木刀を交える。


 (やっぱり、この人の剣は綺麗だ)


 蒼玲流の模範のように、流れるように淀みがない剣。そしてそれは、セバスチャン自身の生き方や志も現れているのだろう。素振りは自分の型を思い出したり、より正確に仕上げたりするためには役に立つが、やはり剣の腕が立つ人との打ち合いほど、技術の向上に繋がるものはない。


 (あぁ、やっぱり剣を振るうことは楽しい)


 ボクは自分の実力を出し切れる相手との打ち合いに心を躍らせ、気分が高揚していくのを感じる。

 肌寒かった朝の空気も、打ち合いが始まるとすぐに熱気に変わった。


 カンッ、カンッ、と鋭い音が響き合うたび、腕に心地よい痺れが走る。

 何度も打ち合い、踏み込み、切り返す。次第に体の芯まで火照り、白い息が濃くなっていった。


 最後に木刀を交差させ、二人で距離を取る。深い礼を交わすと、互いの身体から白い湯気が立ちのぼっていた。


 「……見事ですな」


 セバスチャンが目を細める。


 「何やら、以前にも増して剣にキレが出てきたように見受けられます。迷いが消え、刀筋が澄んでおりますな」


 ボクはしばし黙り、それから頷いた。


 「……そうですね。ザイレム帝国では色々とありました……」


 ボクはセバスチャンに邪気に呑まれそうになった時の話をする。


「邪気に呑まれそうになったとき、これまで、色んな人に支えられて今の自分がいることに気がつきました。そして、今度はこの力で、目の前にいる大切な人や場所を守りたいって、そう自分に誓ったんです。その気持ちが、ボクを動かしているのかもしれません」


 正直に口にすると、セバスチャンは驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく笑った。


 「この老いぼれに、そのようなお話を……ありがたいことです」


 木刀を下げたまま、彼は続ける。


 「私は、本来守るべき大切なお方をお守りすることができなかった。その後悔で、剣を置き、蒼玲流の師範を降りさせて頂きました。でも、本当は私にできたのは、後悔で剣を置くことではなく、その後悔をバネに、更に強く鳴り続けることだったのかもしれませんな」

 「そんなことが……」


 ボクは言葉を失い、黙っているとセバスチャンはにこやかに微笑み続ける。


 「おっと、これはこれは。老いぼれの昔話で暗くさせてしまい申し訳ないですな。ただ、コウ様には『守れなかった』と後悔してほしくない。そんなことを思っておりましたが……」


 ちらりとこちらを伺う視線。その意図を読み取り、俺は口を開いた。


 「はい。……先日フェン村が攻められると聞いた後に色々考えました。やはりどこまでいってもボクに取ってフェン村は守る価値のあるものには思えません。でも、イリスさんがそこに行かなければいけないということであれば、ボクはイリスさんを守るためにフェン村も守ろうと思います」


 セバスチャンの顔が、安堵と喜びにほころんだ。


 「そうでございましたか……」


 彼は深々と頭を下げる。


 「今後とも、ヴァルティア家として、イリス様をどうぞよろしくお願いいたします」

 「や、やめてくださいよ。そんなの……」


 急に真面目に頭を下げられ、俺は思わず両手をパタパタと振ってたじろいでしまう。おそらく、顔も赤くなっているだろう。しかし、そんなボクのことを知ってか知らずか、セバスチャンは更に追い打ちをかけてくる。


 「これでヴァルティア家は安泰ですな。アグナル様も、早いところお孫さんの顔を見たいでしょうに」


 (ぐっ……さっき打ち合って一太刀入れた恨みをここで返してくるのか……?)


 顔を上げたセバスチャンのニヤリと悪い顔をしているのが、ボクの頭の中からいつまでも離れなかった。


 ***


 その日の午後。俺がフェン村防衛に参戦することが間接的にアグナルへ伝わり、再びイリスと共に執務室へと呼ばれていた。

 重厚な扉をくぐると、アグナルは地図を広げた机に肘をつき、難しい表情を浮かべていた。


 「来たか。……まずはじめに、コウ君。今回のフェン村防衛に付き合うと聞いて嬉しく思う。改めてありがとう」

 「いえ、これまでお世話になっておりますので。全力を尽くします」


 ボクの言葉にアグナルは頷くと「では、今後の流れを説明しようか」と言いながら彼は手元の羊皮紙に視線を落としながら口を開いた。


 「斥候からの報告によれば、ザイレム帝国からの出兵はおよそ五千。もっとも、現時点ではすべてがフェン村に向かうかどうかは不明だ」


 俺とイリスは真剣な面持ちで頷く。


 「こちらとしては、防衛の利を活かしつつ三千を集める予定だ。そのうち、ヴァルティア家からは五百を出す」


 地図には、フェン村を中心に東側にユグ山と、南側にある街道に沿う形で六つの細長い隊列を示す長方形が二列三行に並べられていた。

 アグナルは木炭で地図に印を入れながら続けた。


 「幸い、フェン村の東側には山があり、街道は村の南側にしかないため、ここを守れば基本的には防衛できるだろう。そのため、セレフィア王国全体の兵三千は、村の南側を中心に配置し、王国騎士団の指揮官が統率する予定だ。私は自領の五百を率いる。百人規模の小隊を五つに分け、一つをイリスに任せるつもりだ」


 アグナルは、6つの長方形の一つを5等分し、そのうちの一つを指し示す。


 イリスの目が驚きに見開かれる。だがすぐに背筋を伸ばし、力強く頷いた。


 「コウ君については……兵団に属さず、状況を見て動いて構わん。君の力は一兵卒に縛るには惜しい」


 ボクは短く「わかりました」と答えた。

 アグナルはさらに、淡々と情報を重ねる。


 「あと、戦場に出てもらうつもりはないが、私の護衛としてセバスチャンも参戦する。……それと、傭兵を数人雇ったが、信用できるかは未知数だ。彼らには先発軍として動いてもらう予定だ」


 地図を前に説明を終えると、アグナルは一呼吸おいて視線をこちらへ向けた。


 「フェン村の防衛も大事だ。だが――決して無理はするな。最後まで戦場に立っている人間こそが、勝者だ」


 その言葉には、数えきれぬ戦場をくぐり抜けてきた男の重みが宿っていた。

 俺とイリスはしばし見つめ合い、やがて揃って頷いた。


 「はい」


 静かな決意が、部屋の空気を引き締めていた。


 ***


 話し合いが終わった後、私はお父様から呼び止められていた。


 「今から話をするのは、ヴァルティアの領主としての私からではない。父親としての私からの話だ」

 「はい……」


 私は突然声をかけられ、固唾を呑んで父親からの言葉を待つ。


 「お前はその歳で蒼玲流をしっかりと身につけた上、シルバーランクまで昇格した。お前はヴァルティア家の誇りだ」

 「もったいないお言葉です、お父様」


 私はストレートに褒められ、恥ずかしさのあまり父親の顔を直視できない。


 「だがな、その力。過信はするな。戦場では簡単に人が死ぬ。どれだけ強大な力を持っていても、だ。」


 私はハッと顔を上げる。


 「これ以上、私に寂しい思いをさせないでくれよ、イリス」

 「お父様……」

 「イリス。お前はヴァルティア家の長女でもあるが、私の可愛い一人娘でもあるんだ。グレナティスを守るのも良いが、自分の身も同じくらい大事にしてくれよ」


 アグナルのそのあたかい眼差しに、私は胸がいっぱいになる。そして深く頷くのであった。


 (私は、この街のみんなを、そしてお父様を笑顔にするために戦うんだ)


 そう、改めて決意した。

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