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転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第9章 温泉まったり小休止

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第56転 獣月宮竹と会話イベント

 夕食後、寝る前に一風呂(ひとっぷろ)浴びようと思ったら、廊下で竹に鉢合わせした。どうやら彼女も同じ思惑で既に入浴してきたらしく、先を越されてしまった形だ。


 火照った体。上気した頬。額に浮かぶ汗。艶のある濡れ髪。ブレザーよりも断然薄着な浴衣姿。普段とはまた違う魅力の彼女がそこにいた。心臓が高鳴り、誤魔化す為に思わずそっぽを向く。


「……? どうしたのよ、目を逸らして」

「いや、何でもない」

「ははん。私の美しさに見蕩(みと)れちゃったのね」

「バッ……おまっ、何言ってやがんだよ! 自意識過剰もいい加減にしろ!」

「あら、私はかぐや姫なのよ。自分の見た目に自信があると思うのはむしろ自然だと思うけど」


 そうだった。こいつは『竹取物語』のヒロインなのだった。滅茶苦茶にモテまくって、五人の貴族に求婚された逸話は伊達ではないのである。何も言い返せないのがとても悔しい。


「あんたもこれから風呂?」

「ああ。こういうところは温泉に浸かるのが一番の楽しみだからな」

「そうね、同意するわ」


 美味な郷土料理を食すのも絶景を眺めるのもいいが、温泉旅行は温泉に入る事こそが醍醐味だ。他の何を置いても繰り返し味わうべき娯楽である。この御時世、今日を逃したら次はいつ温泉に来られるか分からないしな。


「……ああ、そうだ。獣月宮、今大丈夫ならちょっと二人きりで話したいんだけど」

「? 何よ、改まって」


 竹を手招きにして人気のない場所を探す。しばらくもしない内に階段裏のスペースを見つけた。ここなら今は誰もいないし、誰か近付いてきてもすぐに分かるだろう。


「あのさ……えっと」


 改めて竹の顔を真正面から見ると、凄く照れる。改めて美人だなと思ってしまうのだ。これから言おうとしている事も相俟って心臓が早鐘を打つ。


「ええと……根の国で言っていたアレさ、その……」

「何よ、はっきり言いなさいよ」


 口ごもる俺を竹が半眼で咎める。そう言われても、これは口にするのがかなり照れる内容だ。言葉にするには勇気が要る。

 だが、確かにここまで来て手をこまねいても仕方がない。意を決して俺は続きを口にした。


「本気にしていいのか? その……『プロポーズと捉えても構わない』っての」


 根の国でエルジェーベトに【上級闇黒魔法(ナイトメア)】を使われた時、竹は俺の悪夢を共有して、俺の罪を許した。その際に「俺をずっと隣で見守る」と宣言したのだ。「まるでプロポーズの台詞だ」と俺が評したら、事もあろうに彼女は「あんたとなら悪くない」と返したのだ。出会ってまだ一週間も経っていないこの俺を相手にだ。


 確かにここ数日間に付き合いは密度が濃いものだった。生き死にを共にした相手とは、まるで十年来の知己のように絆が深まるという現象は、桃太郎時代にも何度も経験したものだ。


 だが、それはそれ、これはこれだ。人格や信条は戦いを通じて理解できても、趣味嗜好の話は全くしていないのだ。俺達はまだ互いにどんな音楽が好きかも把握していない。そんな相手と結婚してもいいだなんて大胆な事を決めてしまって本当にいいものなのだろうか。


「ああ、アレ? ……ええ、いいわよ。言ったでしょ、あんたなら()いって」

「……そっか」


 だというのに、竹はあっさりと俺との婚姻の可能性を肯定した。

 こいつの感性が全然分からない。いいのか、そう簡単に夫婦になる事を決めちゃって。


 だがまあ、こいつは『竹取物語』で五人の求婚者に難題を出した奴だしな。まさしく無理難題とはいえ条件を満たせば結婚すると宣言した女だ。そう考えれば結婚自体のハードルは低くても不思議ではない……のか?

 こいつがいいっていうなら……いいか。俺も竹に不満はない。いや、不満はないどころか望む以上の僥倖だ。その美貌も、その性格も、その矜持も俺なんかには勿体ない。


「とはいえ、まずはこの戦いに生き残ってからだし。来年の事を言えば鬼が笑うわよ」

桃太郎(おれ)に鬼を使った(ことわざ)を言うかよ。けど、そりゃそうだ」


 何事も命あっての物種だ。プロポーズ云々なんて戦いが終わった後で考えればいい事だ。そうと決まれば、将来の事はこれ以上考えないようにしよう。しかし、現在についてはもう少し言及する必要がある。


「じゃあ、その……まあ、何だ。その前段階って事でさ、俺とお前は恋人同士って思ってもいいのか?」

「え? ええ、ああ……そうなるのかしら。そ、そうよね。恋人。順番的にはそうなるわよね。……うん、うん」

「なんで恋人の方が恥ずかしがっているんだ、お前は」


 やっぱりこいつの感性が分からない。結婚は平然としていて恋人には動揺するってどういう事なんだ。


 ああでも、昔の上流階級というのはそんなものなのかもしれない。貴族の結婚は家格と財政力、親の都合でするものであって、当人同士の感情にはあまり触れない。恋愛結婚なんてものは庶民の特権なのだ。そういう感覚だから竹も、結婚観に対してはドライで、恋愛観に対しては不慣れなのかもしれない。


「えっと、じゃあ……よろしくお願いします、竹」

「う、うん……こちらこそよろしく、吉備之介」


 ぎこちなく手を差し出すと、竹も俺の手を握り返してきた。


 今、互いに初めて下の名前で呼んだ。それだけでもとても満たされた気分になった。掌にじっとりと汗を掻いているのが分かる。


「そ、それじゃあ俺は風呂に行ってくるから」

「え、ええ。いってらっしゃい」


 別れ際の言葉も互いにぎこちなかった。我ながら先が思いやられる有様である。

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