幕間15 異世界転生軍幹部会議/後
「あ、じゃ、じゃあ……あたしから。輪廻転生者の集団を壊滅させました。じゅじゅじゅ十三人くらいいたと思います。えへへ……」
ヌトセ・メイヤーズは小柄な少女だった。頭髪は癖のある紫色、虹彩は深海色。服装は『僧侶』カルル・トゥルーと同じ修道服の系統だが、白黒が反転している。純白を基調とした衣装だ。威厳を演出するような装飾品も幾つか身に着けている。
頭巾の下では少女がおどおどとした半笑いを浮かべている。一見気弱そうな彼女こそが何を隠そう、異世界転生者最強の女性と呼ばれているのだ。
「十三人? 累計十三人じゃなくて同時に十三人か?」
「ふーん、大したものですわね」
「えへ、えへへ……そ、そそ、そんな事ないです。でも、これで結構な敵の戦力を削れたのではないかと……」
どこまでも自信のなさそうな笑みを浮かべながら、ヌトセの告げる内容は驚異的だった。
「じゃあ、次はワシじゃ。と言っても誇れる戦果は一つだけじゃがの。あのクー・フーリンを倒したぞ」
次に発言したのは序列六位、『戦士』タウィルだ。
ウニのように尖ったボサボサの黒髪の若者だ。筋骨隆々、シルエットは細身ながらも鍛え上げられた肉体は岩山のようであり、生命力に溢れている。一方で、醸す空気には老齢による枯れた雰囲気があった。
「クー・フーリンってケルト神話の大英雄かい? そうか、ケルトの土着信仰にも確か輪廻転生の概念があったね」
「うむ、強敵じゃった。お陰で九十八回も死んでしまったわ。百回を超えるかとヒヤヒヤしたわい」
ニイッと笑みを浮かべるタウィル。当然ながら彼は生きている。百回近くどころか一回も死んだようには見えない。にも拘らず、彼の発言を疑う人間はこの場に一人もいなかった。
「輪廻転生者を倒したついでにおれも。イシュニさん、あんたの依頼していた輪廻転生者二人の生け捕りにしてきたッスよ。要望通り、比較的美少年な奴を選びました」
続いたのは十三番隊長、『村人』ゾタクァだ。
三白眼の男だ。年齢は少年と青年の狭間。服装は他の九人と比べて地味で質素であり、村人らしい格好だった。この円卓に並んでいるのが不思議に思うほどの一般人ぶりだ。
だが、当然彼は一般人などではない。むしろこの中で誰よりも難敵といえる実力者だ。
「あら、それはありがたいですわ。して、その二人とはどこの誰ですの?」
「牛若丸。それとラーマっていうインドの英雄ッス」
「ほおう、そいつぁすげえな」
輪廻転生者を倒したのみならず、生かして捕らえたという離れ業に皆が感嘆の息を吐く。殺さないようにするという事は手加減ができるという事である。
「さすがは『秘密兵器』と呼ばれているだけはあるね」
「その二つ名、恥ずかしいんでやめて欲しいんスけどね」
そう言って目を逸らすゾタクァ。照れているだけではなく、半ば本気で迷惑そうだった。
「うんうん、順調で何よりだね。だけど、皆も分かっていると思うけど、ここからが気の引き締めどころだよ。追い詰められた勢力がどんな選択肢を取るか、知っている筈だからね」
ここまでの話の流れを聞いて、満足そうに頷いたのは序列三位、『神』ザダホグラだ。
白金髪に虹色の瞳。神官の如き厳かなローブを纏っている。外見年齢は二十代後半、優美な顔立ちは衆生を惹き付ける魅力がある。湛えた微笑は静穏だが、どこか異質であり、『魔王』よりも人外さを感じさせた。
「徒党を組む。敵味方・仲不仲を無視して同盟を結ぶ。そう言いたいんだね、ザダホグラ」
「その通りさ。個でも恐ろしい奴らが群れと成す。集団ほど厄介なものはないよ」
アーザーの返しにザダホグラが頷く。彼ら『終局七将』は物語の完結まで走り抜けた猛者である。敵に追い詰められて誰かと手を組んだ事も、敵を追い詰めすぎて手痛い反撃を受けた事もある。ここで気を緩める事はない。
「二番隊には引き続き、輪廻転生者達の居場所を探索しろ。他の者達は別命があるまで待機。いつでも奴らと戦える状態にしておけ。以上だ」
全員の報告を聞き、ハワードが次の指示を下す。他の九人もその指示に不満はなく、一様に頷いた。
「皆、今日はゆっくり休んで英気を養んでくれ。安心して欲しい、ここは空の上の城。彼らもそう簡単に手出しはできない」
最後にアーザーがそう締めくくり、会議は終わった。




