幕間14 異世界転生軍幹部会議/前
魔王城シャールノス、本島の会議室にて。
イゴロウがドアを開けると、室内には異世界転生軍幹部が勢揃いしていた。
「悪ィ、遅くなっちまったな」
「構わないよ。君が病み上がりだからね」
「病み上がりっていうか蘇りだがな」
言葉を交わしながら自分の席に着くイゴロウ。会議室の円卓には十人の異世界転生者がいた。
上座から順に座っているのは『終局七将』と呼ばれる七人の幹部。
序列一位、『勇者』アーザー。
序列二位、『魔王』ニール・L・ホテップ。
序列三位、『神』ザダホグラ。
序列四位、『聖女』ヌトセ・メイヤーズ。
序列五位、『盗賊』イゴロウ。
序列六位、『戦士』タウィル・アトウムル。
序列七位、『悪役令嬢』イシュニ・G・シュプニクラート。
この七人である。続いて円卓に座るのは三人の幹部。
一番隊長、『王』ハワード・エルクラフト
二番隊長、『吸血鬼』エルジェーベト・ブラッディタン。
十三番隊長、『村人』ゾタクァ。
この三人だ。合計十人のこの幹部が異世界転生軍を動かしているのである。
「ん? おい、エルジェーベト。テメェ、根の国に行っていたんじゃなかったのか? 思ったより早い帰りだったな」
「ついさっき戻ってきたんですよ、ちょっとトラブルがあったもので」
「トラブル?」
「輪廻転生者に遭遇したんですよ。確かネロって言っていましたかね、あの子」
「ネロ……ああ、桃太郎の仲間か。テメェも災難だったな」
「キビ……」
イゴロウが吉備之介一行の事を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をする。その他、吉備之介達と面識のある面々も渋い顔だった。特に幼馴染であるアーザーの表情は他者よりも険しかった。
「――さて、イゴロウ君も来た事だし、そろそろ会議を始めよう」
そう話を切り出したのは一番隊長、『王』ハワードだった。
黒い短髪の男だ。年齢は青年も後半に差し掛かろうという頃。纏う衣服は華美ではないが、高貴さを感じさせる意匠であり、王族に相応しい装いだ。
「誰か報告する事はあるか?」
ハワードは一番隊長にして異世界転生軍十三隊を統括する総長でもある。地位こそ『終局七将』の下にあるが、実質的な司令官は彼であると言っても過言ではない。こうして会議を進行するのも彼の役目だ。
「じゃあ、まずオレからいいですかね?」
最初に挙手したのはエルジェーベトだ。
「冥府――根の国の底から調査を行った結果、『魔界孔』に施した結界はまだすぐには壊される事はなさそうです。ですが、それでも保って八日。多分それよりも早まる可能性の方も高いですね」
「ふむ、やはりそんなものか。如何に余の力が強大といえども永劫続くものは作れんものよ」
エルジェーベトの報告を聞いてニールが頬杖を突く。表情は面白くなさそうな仏頂面だ。
「『魔界孔』――魔族の故郷とされる世界に繋がる孔。我ら魔族はこの孔より訪れた種族だといわれてきた。魔族も人類も二〇〇〇年もの間、その話を信じてきた」
「孔からは絶え間なく闇の元素が大量に噴出し、魔族ですら近付く事は簡単じゃなかった。だから、誰もその話が真実かどうか確かめる事はしなかったんだよね」
だが、
「それは地球の神々が流した真っ赤な嘘でしたわ。その実態は魔界ではなく地球の冥府に繋がっていた。魔族の故郷などという話は魔法世界人に地球の存在を気付かせない為の誤魔化しでしかなかったのですわ」
「うむ。だから余らは魔法世界に流入する闇の元素――地球の澱みを止める為に結界で孔に栓をした。……だが」
「根本的解決にはならなかったという訳だね。膨大な澱みを受け止め続ける事はできない。結界はいずれ壊れる。やはり魔法世界と地球を完全に切り離すには決闘儀式で勝つ必要があるという訳だ」
「あん時、神々に決闘の宣言をしてから今日で七日目か。今日を入れて残り八日で決闘当日。ギリギリ間に合うかどうかだわな」
「やっぱり十四日後に期限を設定して正解でしたわね。それ以上は待てませんでしたわ」
ニールを始まりとしてアーザー、イゴロウ、イシュニが言葉を繋げる。四人の意見を聞いてハワードは頷き、話題を次に進めた。
「その来たる決闘の為に我々が行っている輪廻転生者狩りはどうなっている? 誰か報告するほどの成果を上げた者はいるか?」
そう尋ねたハワードに応じたのは序列四位、『聖女』ヌトセだった。




