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転輪御伽草子モモタロウ ~ぶっちぎりの最強vs.最強!!! 異世界転生者と輪廻転生者が地球の命運を懸けて正面対決する!!!!!~  作者: ナイカナ・S・ガシャンナ
第7章 富士山麓の魔王城

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幕間6 トールキンかぶれの領主

 吉備之介達がガブリエラ・B・カームブルと遭遇した頃。

 カルルとネロは暴れに暴れ回っていた。


 二人を取り囲むのは異世界転生軍の兵士だ。まず魔法使いの部隊が陣形の外側から雨霰と攻撃魔法を放ち、続いて戦士の部隊が鉄の槍で四方八方から刺し殺さんと押し寄せる。更には武闘家や盗賊といった俊敏性に自信がある面々が、隙間を縫って急所を狙う。並大抵の軍勢であれば為す(すべ)なく蹂躙されるだろう飽和攻撃だ。


「はっはアッ! 浅いネ! ぬるいネ! くすぐったいネェ!」

「デュフフフ……ちょっと前まで自分が所属していた組織を滅茶苦茶にするというのは、妙な背徳感がありますなあ!」


 だが、カルルもネロも並大抵ではない。片やチートスキルを授けられた異世界転生者、片や怪物である前世を蘇らせた輪廻転生者だ。


 カルルの絶対防御なる【海の王者(リヴァイアサン)】、イゴロウの短剣も通さなかった魔力放出の鎧であるネロの【七の獣頭(メガセリオン)】、こと耐久戦において無類の強さを誇るこの二つのスキルが囮作戦においては相性が非常によかった。

 その結果、異世界転生軍の攻撃はまるで通用せず、反撃にと繰り出されるカルルの光魔法やネロの拳によって逆に蹂躙されていた。


 彼らの名誉の為に言っておくが、異世界転生軍が弱い訳ではない。魔法使いの攻撃魔法は小型ミサイルに匹敵するし、戦士の鎧は銃火器や地雷などの対人兵器など物ともしない。武闘家の反射神経は銃弾を見切り、盗賊の観察眼は敵軍の隙を見抜く。そんな彼らが十把一絡(じっぱひとから)げにやられているのは、カルルやネロが更なる実力を持っているからである。転生者という存在がどれほど他と隔絶しているかが分かる。


「ぐへへ……デュフフフ……」

「何、カル。気持ち悪い笑い声を出して」

「ああいや失敬! 男の娘(オトコノコ)と一緒にいると思うと興奮が収まりませんでなあ。しかもこんな美少年となれば」


 カルルに至っては状況を楽しむ余裕すらある。女装美少年と背中合わせになって戦うというシチュエーションに今や興奮すら覚えていた。炎や雷、鉄の槍も氷の槍も乱舞する最中でだ。先程の恨まれている云々の話も半ば忘れている。


「美少年? ふふーん、そう言われると悪い気はしないネ。精々今のうちにボクの御尊顔を堪能するがいいサ」


 そんなカルルにネロも毒気を抜かれていた。カルルの称賛を純粋に喜ぶ。激戦の真っ只中、二人の間だけ和やかな空気が流れていた。


「……そろそろ来るかな」

「む?」


 ふとネロが一方向に視線を向ける。カルルも釣られてそちらを見れば、そこに一人の男が立っていた。

 年齢は三十歳を過ぎているだろうか。肩にまで伸びたヨレヨレの金髪に気だるげな半眼。高貴そうな服を纏っているが、かなり着古したのかくたびれている。全体的に芸術に傾倒した道楽貴族といった印象を受ける男だ。


「……ふむ。やはり転生者相手に雑兵では埒が明かんな。兵士達にも少しは出番をくれてやるかと思ったが、焼け石に水だったか」

「せ、セレファイス隊長……!」

「貴公らは下がっていろ。こいつらは小生が片付ける」


 兵士達を退かせて、男がカルル達へと近付く。カルル達との間に十歩ほどの距離を保って立ち止まると、男は気だるげな視線を二人に投げた。


「魔法世界カールフターランドはハイ・ファンタジーとして実に嘆かわしいのである。貴公もそう思わんかね?」


 と唐突に男は語り出した。


「やれステータスだの、やれ属性だの、初級中級だの、全くゲームの如き有様。違う、違う違う違う。ハイ・ファンタジーとはそんなものではない! 魔法世界とはもっと独創的で幻想的でなくてはならないのである。そう、()のJ・R・R・トールキン御大のように!」

「くぁー! 相変わらずのトールキンかぶれですなあ」


 カルルが鬱陶しそうに表情を歪める。元異世界転生軍七番隊長である彼女は当然、目の前にいる男とも面識があった。


「小生の名はクラネス・K・セレファイス。異世界転生軍の十一番隊長、セレファイス侯爵家が一子、『領主』の異世界転生者である」


 それでも男――クラネスは名乗った。彼と面識のないネロの為ではない。自己顕示欲の発露から自分の名前を明かしたのだ。


「それで、そこの男女(おとこおんな)。今の話についてどう思う?」

「どーも思わないネ。ボクにとっては魔法世界(カールフターランド)は仇敵だ。これから殺す相手の事情を知る事ほど無意味なものはない。どんな世界観だろうと興味はないネ」

「ふん、道理であるな。そっちのオタク女はどうだ? どうせ貴公の如き低俗な者はゲーム的世界観をむしろ喜んでいるのだろうが」


 クラネスが侮蔑を隠そうともせずにカルルに問い掛ける。彼の態度にカルルは眉間にしわを刻むが、とはいえ無視するのも気分がよくないので律義に返答した。


「喜んでいるのは否定しないですが、そもそもどんな世界観だろうとそこに住んでいる人達がいますのでな。彼らの暮らし、彼らの文化、彼らの思想。世界観を否定するという事はこういうのもの否定する事になります。なので、あなたの考えには賛同できませんなあ」

「……思っていたよりも真っ当な答えが返ってきたな。まあ、結論は変わらないのであるが」


 ふん、とクラネスは鼻で嗤い、


「くだらん世界観にはくだらん暮らし、くだらん文化、くだらん思想しか生まれんと思うのだがね。まあいい。無駄話はここまでである。そろそろ仕事を始めるとしよう。――貴公らをここで捕縛する」

「!」

(のり)を敷け――【夢想する我が紫庭ガーデン・オブ・ヒュプノス】!」


 クラネスの気配が変わった事にネロとカルルが身構える。クラネスの足元から植物の蔓が幾本も伸び、周囲に巻き付いた。


「この蔓は証だ。我が領域に呑まれたという事を示す為のな」

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