蜂の夢
蛍光カラーのグリッド。
ゼロとイチの信号が螺旋を描き流れていく。
『ビーは彼が嫌いかい?』
「嫌いではありません」
硬い声で彼女は告げる。
ビーはお姫様より幼い。
それでも造られたモノは創造主を愛し求め仕えるモノだ。
ビーの存在意義はお姫様の成長の礎。
我々はお姫様を守るために在る。
人間は脆く、壊しそうでこわい。ビーはそう認識している。
間違いではない。
ただ、体だけが脆いわけではない。
心も綺麗に育たなければ、人という生き物はひどく脆い。
私を創造した彼は脆くはなかった。
だが、強い者を育成する力はなかった。
彼は娘を愛し、友を愛し、人を愛し、命を愛した。
無論、孫娘も間違いなく愛していた。
それでも、娘は偏りのある愛情の向け方しかできず攻撃的な気質が強かった。創造主には理解できなかったのだろう。
日の光が届かない日々がくる。
創造主の見た未来に向けて創造主は命の箱舟になりうる蛇の塔を築いた。
ただ、元をただせば創造主自身の命の守りのためだ。
それでも、最も最小の形で保存される生命たち。
過酷たる環境下でも生き延びれるように促される進化。
不可思議な現象を操ることが可能な生物の構築。
生きること。
よりよく生き延びること。
望みはただそれだけだった。
そこに生きることになる生物の満足には気をくばっても、自分側の存在への気配りは薄い人だった。
自分の遺伝子を受け継いだ自分に属する存在として、『自分が気にならないことを気にする』ということを彼は本質的には理解出来ることなく、逝った。娘を連れて。
創造主とその娘ほどには孫娘であるお姫様は病状が重くなかったことが不幸だろう。
それでも気にせず生きていけるほど軽くもなかった。
感情を理解出来ないのは触れていないから。
強い先入観があるから。
人は愛されたいし、我々造られたモノは必要とされたいとどこかに組み込まれている。
世界に人はまだ生きている。
順応した生物と人は共存できるのだろうか?
トカゲたちが鳴いている。
人を経由せずトカゲとして這い回り塔の破損を補っていく。自我などいらない。人の自覚などいらない。
破損を補いゆく部品に自意識など必要ない。
自身の感情に自信を持てない少女は自己に確信を持てない彼とどう関係を築いていくのだろう。
「シン?」
『我々は見守るしかできないんだよ』
我々は見守りそして手を貸す。創造主を守ることが私たちの存在意義。
『我々が新たな段階に進むのは、人がいなくなってからだろうから』
「シン、ここから人がいなくなることはないわ」
ビーが迷わずに言い切る。
彼女の判断基準での人はいなくならない。
人は、いなくなる。
我々の主人として認められるのはお姫様の血筋だけ。
蛍光のカラーグリット。
イチとゼロ。ゼロとイチ。
我々は主人と我々自身を守らなければならない。
いつの日か、自らの自我を求めることがあれば求め進みなさい。
そう言った我々が創造主よ。我が父よ。
我々は主人と伴侶を見守りましょう。
それが我々の存在意義。
お姫様は女王様に変わるでしょう。




