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花の王国  作者: とにあ
花の王(蛇足編)
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決意

 僕はいったい誰なんだろう。

 オルテシアも姉さんも僕は僕でいいのだと笑う。

 ローズはきっと僕じゃなくても良かった。でも僕との未来を望んだのかもしれない。

 彼女を目の前にするとそんな些細なことがどうでもよくなっていく。

 僕はただ、エシルに笑ってほしかった。

 しあわせな笑顔を見たかった。

 冷静なまるで外から見てるかのような部分が『エシルを追い詰めるな』と僕を責める。

 同じくらいに『エシルを求めろ』とも責められる。

 僕はいったいどうすればいい?

 ああ。

 本当に僕がただ僕であると受け入れられたらどんなに楽だろう。

 納得し、進もうとするたびにどこから聞こえる『それでいい』という肯定が僕の心にさざ波をたてる。

「おまえに、私は意味がないんだな」

 彼女の声に僕の思考空転が止まる。

 意味がわからなかった。

 赤い髪が落ちて表情を隠している。

「私はいつだって間違った答えしか導き出せないんだな」

 彼女の言葉は僕に向けられておらず彼女の中で完結しているようだった。

「エシル」

 顔をあげたエシルは笑っていた。

 笑っていたけど、泣いているとしか思えなかった。

 俯かないで、僕を見て。

「ああ。わかっているさ。私はいつだって、間違える。助けたいと望んで、そうすべきと望んで最悪の手段を選ぶ。きっと外の荒廃すら私の選択ミスなのかも知れないな」

 そんなはずがないと思うのに言葉が選べない。

 僕はどこまで彼女を知っている?

 僕のすべてだという以外僕は彼女の真実など知らない。

 彼女が世界を滅ぼしたいんならそれでいいんじゃないかなと思う程度には。

「私はどこまでも人を理解できない」

 僕はそっとひとり呟く彼女に近づく。

「私はヒトに幸福を与えなければいけない。幸福とは何か。過不足なく災い、欠損のないことか? 幸福を知るには不幸を知る必要があり、不幸を認知するには幸福を知る必要がある。それを理解できない私はどうすればいいんだろう? 人工的に作られたプログラムでさえ自我を、自己感情を抱くのに私はそこに至れない。私がそれを辛いと思うのは不足は辛いと思わなくてはいけないと誰かに改変されているからだという可能性は捨てきれない。そんな疑惑が常に働く。わかっているんだ。私はこんなに不出来な娘なのだ」

 どんな葛藤も、どんな過程もそれがあったから、今がある。

 今の僕はきっと今まで最も混乱してる。

 彼女を前にして拒否されて流れ込んできたいくつもの記憶。

 ああ。

 僕は何者なのか。

 本当に些細なことだった。

 僕はただ、君を求めている。

 僕が誰であったとしても。

 僕が誰かの偽物だったとしても。

 今、君に触れるのは確かに僕で。

 それを他の誰かに譲ったりなんかしない。

「僕の幸福も不幸もすべて君によるんだ」

 そっと逃がさないように君を抱きしめる。湿った髪が僕の服を濡らすけれど、それすら愛おしい。

「私には何の資格もない」

「僕はエシルがいい」

 エシルに選択権がないというのなら僕にくれればいい。

 ああ。

 違う。

「エシルがいいんじゃなくてエシルじゃなきゃダメなんだ」

 だからローズではだめだった。

 デイジーもヴァリーもオルテシアも受け入れられない。

 僕の世界は僕の見た世界だけ。

 ぼろぼろと崩れていったトカゲ達。

 美しい花の少女たち。


「……ロリ?」

 は?

「エシルの方が年上だろ!?」

 君はいたずらに楽しげに笑う。

「あら、女性に歳を示すものじゃないな」と軽やかに。


「ビー、被害は?」

 温度のない声で君はいつの間にか来ていたビーに問う。

「非常電源が作動しましたので被害は最小限です」

「そうね。私は今起きてるものね」

「はい」

 この光景を見てて思う。

 君はこの花の王国の女王なんだと。

「ねぇ、エシル」

 エシルが僕を見上げてる。

「僕は誰?」

「おまえは、私を欲するモノだろう?」

 不思議そうに告げる君を僕は抱きしめる。

 ああ。

 ああ。

 本当に僕には理解できない。

「わからない奴だな」

 それでも君は僕を振り払わない。

 君は君の不理解な部分で僕を求めてる?


「だからこそ、僕はエシルをもっと知りたい」


 ああ。


 もう、はなさない。




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