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花の王国  作者: とにあ
奈落の紫陽花
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言葉

「なにを悩みます?」

 オルテシアがクッと覗き込んでくる。動きのひとつひとつがどことなくぎこちない。

「僕がなんなのか、わからないんだ」

 こぼれるのは弱音以外の何物でもない言葉。

 ぎこちない沈黙。ゆっくりとまばたき。



「あなたは、……あなたです」



 じっと緑の瞳が僕を見る。


「おるてしあはおるてしあです。あなたの、知ったおるてしあでないでも、おるてしあです。かわりません」

 ぎこちなく上がる口角。

「オルテシア」

「おるてしあはろーずの館に配備されてました。トカゲは目であり、牙です。おるてしあはシステムの一部となり、消耗されるはずでした。……しかし、あなたが望んだから、おるてしあは再び言葉を操る素体へと修復されました」

 一呼吸おき、微笑む。さっきより自然に。

「おるてしあはあなたを見ていました。でも、そこにおるてしあの意思はありません。それでも、おるてしあもあなたを見ていました。あなたがおるてしあがおるてしあでないというのも正しい。それでもおるてしあはおるてしあなのです。他の誰でもないおるてしあです。だから、……あなたはあなたなのです」

 ゆっくりと僕を見つめながら言葉は紡がれる。

「おるてしあはあなたでないあなたを、知らない。おるてしあは、あなたであるあなたしか知ることはないのです」

 わかって、いるんだ。サラも、デイジーも『僕』を見てくれていて、それでいいと言ってくれていた。

 その点で言えば、ローズだってそうだった。彼女らは前など関係ないと僕を見てくれていたことを僕は、知っている。

 それでも、僕は僕である確証が欲しかった。不安だった。

「だから、おるてしあは思う。わからないときはわからないが正しいと」

 え?

「むりに、今、解決しなくていい。急がなくていい。あなたは一人じゃない。ワタシは、おるてしあは味方になりたい。おるてしあはあなたしりたい。あなた、あなたが知りたい。おるてしあと一緒」

 こほんとオルテシアが言葉を途切れさせる咳をする。

「ゆっくりは悪くない。たどり着く場所はひとつじゃない。正しいはひとつじゃない」

 じっと見つめられて居心地の悪さが強い。

「おるてしあが、修復されるのは……正しくない。それでも必要なら正しい。おるてしあはここにいていい?」

 俯いてしまっていた顔を上げる。

 そこにあるのはどこか不安そうなオルテシアの表情。

「オルテシア」

 眼差しが、僕を映す。

 ごめん、は違うのがわかる。オルテシアも不安なんだと思う。そう、理解できなかったけれど、ローズも不安だったんだと思う。


「ありがとう」



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