92 アダンとメリーは魔術修業……する?
子供達に魔術を? あの、魔術を使うと寿命が……」
『心配なのはわかる。だが、あの子達が自分の身を守るためにも必要だろう』
そう言われると弱い。
ハルスタットから逃げることになったとしても、魔術は役に立つ。
安全に逃げる可能性が上がるのだ。
それに孤児で後ろ盾のない二人にとって、魔術は生きる糧を手に入れられる最高の技術になるだろう。
『寿命のことは、話して本人達に選ばせるといい』
「そうですけど……。あまりにむごくて」
だから、おいそれと魔術を使えるようにしようと言えなかった。
戦争になるのなら、魔術が使えた方が生き延びられるだろうけど、その後、何年生きられるのか。
そんなことを想像すると、ためらってしまうのだ。
『それに……わしにとっても、これは初の研究となる』
「研究?」
『自ら魔術を発現させる前に教えた場合、どれくらい寿命を温存できるのか、だ。そもそも最初の魔術を使用する時、最も軽い魔術を使うことができるのか。これについても実験ということになるであろう』
「そういえば、ささやかな魔力しか消費しない魔術、ってあるんですか?」
『あるにはある。まぁ、指先に火を灯すような物であれば、錬金術に使うよりは多い魔力を必要とするが、心臓に損害を与えることはないであろう』
カールさんは『おそらく、できないことではない』と続けた。
『そなたが錬金術で、魔力を少しだけ使う方法を教えただろう? それを少し増やす形で魔術が使えるようになれば……。後世の魔術師達は、よほどのことがない限り、寿命を半減させることはなくなるはずじゃ』
私はうなずく。
「魔術を使うこつをつかんで、そこから先、寿命を削るような大魔法を使うかどうかはアダンとメリーに任せたいと思います。一緒に戦うかどうかも、すべて」
個人的には、あくまで二人に身を守る方法を教える、という形を保ちたい。
寿命を失うかどうかは、あくまで本人たちの意思によって決めるべきことだから。
「戦力として数えない方が、未来を変える隠し玉みたいでいいですよね。できれば、ほんの一日分とかそれぐらいで済む魔術までにしてください」
そうしたら、逃げるために魔術を使っても、その後長い人生を送れるはずだ。
『わかった。教える魔術はわしに一任してもらおう』
「まぁ、私じゃ魔術についてはとんとわかりませんし……。とにかく二人に話して見ましょう」
寿命の問題は、二人に話す。
それから選んでもらう。
戦いに参加するかどうかも、ハルスタットから先に逃げるかも二人に選んでもらおう。
決意した私は、翌日、アダントメリーだけを工房に入れて話をした。
ミカにも遠慮してもらったことで、二人はどんな話をするのかと、緊張した表情をしていた。
「今日は、ちょっといつもと違う話をしたいの」
私は率直に、二人には魔術師になれるだけの魔力があると話した。
そして望むのなら、魔術師になれる技術と知識を教えてくれる人がいる、と。
「もしそれを選ぶなら、二人はすぐに強い力を手に入れられるし、どこで暮らすのも自由に選べるし、衣食住で苦労しなくなると思う」
まずは利点を。
そして欠点も話す。
「だけど魔術って、錬金術に使う物とは比べ物にならないほど大きな魔力を動かすの。そのせいで、寿命が減ってしまう。戦争に参加した魔術師なんかは、使いすぎて戦場で絶命してしまうほどなの」
アダンが「聞いたことがあります」と言う。
「魔術師が今の地位を手に入れた経緯を、家庭教師がそんな風に話してました」
「ほんとうによく勉強していたのね。だから、必ず二人に勧める物ではないのだけど……問題があるの」
「問題、です?」
メリーが可愛らしい声で復唱して、首をかしげた。
「まもなく、アルストリア王国は戦争になるの。そしてかなり初期のうちに、ここハルスタットも攻撃される」
「え……」
アダンもメリーも目を丸くしていた。
私は二人に、ベルナード軍の強さと、ハルスタットが無事ではいられないかもしれないことも話した。
賢い子達だから、きっと理解してくれると思って。
「だから二人だけでここを脱出しても、その先も生き延びられる力をつけてほしいと思ってる。そのために、魔術を勉強しておいてほしいの。私達大人が負けた時のために」
守り切れるのなら、二人は魔術を使うことはない。
このままでいられる。
魔術は、念のための措置でもあるのだ。
「僕は、魔術を教えてほしいです」
ややあってアダンが言った。
彼はまっすぐに私を見る。
「もしできるのなら、戦いたい。それと……」
すこしためらってから、続ける。
「町にいるマティアスにも、魔術を教えてやれますか?」
一緒にさらわれてきた、貴族の子供のことだ。
彼もまた、魔力が強いからと連れて来られたのだ。きっと魔術師になる素質はあるだろう。
私はうなずいた。
「彼が望むのなら。今日中に呼んで、一緒にやるかどうか確認しましょう」
私は心の中のメモに、町へ使いを出して、呼んでもらうこと、と書き込んでおく。
今度はメリーが手をあげた。
「あの。錬金術のことは、もう教えてもらえないですか? 薬作るの、楽しかったんです」
私は思わず微笑む。
「もちろん。むしろ魔術師と錬金術の両方を極めてもらってもかまわないわ」
「じゃあやります!」
それで、ひとまずは町にいるマティアスを呼んでもらうことにした。




