表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約結婚のその後で、領地をもらって自由に生きることにしました  作者: 奏多


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/104

104 対策は一つでも多く

「領主様!?」


 夜は敵も動かなさそうだとみて、街道側の兵士達もテオドールも、見張りを置いて休んでいたようだ。

 そこへ走り込むと、叩き起こされたテオドールはさすがに驚いた。

 

「何か異常事態が!?」


 静まり返った中では、音が遠くまで届きやすい。

 だからか、テオドールはささやくような声で驚く。


「これから異常事態が起こるかもしれないの。例の山の件はどう?」


 私に聞かれて、テオドールがはっとした顔をする。


「必要になりそうですか?」


「今のうちに準備してほしい」


 言うと、テオドールは素早く目的の兵士達の所へ行ってしまう。


「山の件というと……魔石の洞窟ですか?」


 ニルスがこそっと聞いてくる。

 私はうなずいた。


「最終手段だなんて言ってると、めんどうなことになりそうだから。早めに動かせるようにしておきたいの」


「この街道の壁を破られる恐れがある、と予想されておられるのですか?」


「こちらではなく、不意を突いて裏の方になると思うけど……。それなら街道側の兵士をあっちに回すか、先に城へ戻したいの」


 兵士がほとんど出払っている城が危ない。

 一応、誰も戻ってこなかった場合の逃げ方も、セレナには教えてあるし、指揮をとってくれるはずだけど。

 ほぼ誰も反撃しなければ、手薄と見て強行突破してくるかもしれない。

 そうなったら、城の方が先に陥落しかねなかった。


「んもー。そもそも、待ち構えての戦いとか、兵士が相手に比べて少ないとか、領民を守りながらとか、全部けっこう不利なのよ。あの母親をどうにも止められない国王の弱腰っぷりは、危機に向いていないったら。国が兵を動かしてくれてたら、西の辺境伯がちゃんと防衛をする気があったら……」


 ぶつぶつと、文句が出てしまいのは、私が不安だからだろう。

 どこからか奇跡が降って来ないかと期待はしてないけど、期待できないからこそ、最後を決めるのは自分だという責任が重くて。

 どうにか、軽微な損害で済ませられないかという夢も見てしまうからだ。


 ふいに、ぽんと肩に手を置かれる。


「落ち着いて、領主様。何か気づけば、他の者が補佐します」


 ニルスが穏やかな声で言ってくれる。


「うん、そうね」


「各配置で、最良と感じたらそれを実行するようにもご指示されていますし、どちらにも戦の経験者がいますから」


「ええ」


 うなずきながら、私は深呼吸する。

 

(落ち着いて私。まだ、あの状況は起こってない)


 焦ってしまうのは、戦の経験者がいても壊滅状態になりかねないせいだ。

 彼らだけに背負わせて、嘆くだけでは未来を見た意味がない。


 だけど……。

 今やろうとしていることを実行しても、結局は街道側にいる兵士をも裏道から現れる魔物とぶつけることになる。

 とんでもない魔物ばかりだから、どう考えても損害は軽くない。

 沢山死ぬだろう。

 顔や名前をよく覚えている人達が、悲惨な死体になるかもしれない。

 それどころか、兵を沢山死なせてしまったら、城を守ることもできなくなる。


(何か避けられる方法を探さないといけない。どうする……。そもそも裏道が簡単に突破されたのはどうして?)


 街道側は無事だった。

 それなら、壁や石のスライム達はがんばってくれていたのだ。

 石のスライムの被害に、フレッドが泣いただけで済んだのかもしれない。


『山側を越えて侵入した者がいるのではないか?』


 カールさんがささやきかけてくる。


(そちらにも、通れば音が鳴る仕掛けをして、不意打ちされないようにしてたんですが……。でも、魔物が大挙したら、一匹ぐらいは壁を壊せてしまうかもしれないですね)


 今の所、それが一番有望だろう。

 するとカールさんが言う。


『一応。裏切り者が他にもいる可能性は捨てない方が良いぞ』


 その言葉に、心臓がひやっとする感覚に襲われる。

 裏切りは一番怖い。

 戦記物の本でも、それで語り手が最悪の危機におちいったり、仲間が亡くなったりしていた。


 だから、兵士への報酬だけは、あまりケチらないようにしていた。

 せめて金銭に釣られたりしないように。

 おかげでローランドに離婚の時にもらった餞別は、かなりの額が兵士の報酬に消えている。


(それに、マティアスに兵士達を見回ってもらったので、もう魔物になる薬を持っている人間はいないと思うんです)


『そうだな……。まぁじじぃにもなると、色々疑ってしまいそうになってな』


(ご心配はわかります。何もかも疑いたくなりますから……)


 生き残るために、少数の兵しか持たずに立ち向かうしかないからこそ、少しの問題も気にしなければならない。

 たとえ仲間だと思っている相手でも……。


 と、想像したところでふと思いつく。


「ニルス、誰かロージーのところに走らせてくれる? ベルナード軍側から何か投げ込まれていないかどうか。それを誰も拾わないように、そして燃やさせてと。ベルナード軍が毒や人を魔物に変える物をよこしてくるかもしれないから、と」


「承知しました」


 ニルスは、集めた兵士に指示をし始めたテオドールに近寄る。

 やがて騎乗した兵士にニルスが何かを伝えると、急いで兵士は駆け去った。


『投げ込まれた物を、誰かが拾って口にすると思ったんか?』


 カールさんの問いにうなずく。


「兵士の中には、西の辺境伯領から来て採用された人もいます。もうすでに、あちこちの地域に、ベルナードに取り込まれた人が散っているのなら……。そういった人の中に、なにかしらの取引をもうしていた上で、進軍ルートの町に潜り込んだ人がいるかもしれないし……。その場合を想定するしかない、と」


(ありえない話ではないのぅ)


 カールさんも同意してくれる。

 それからすぐ、テオドール側の指示が終わったようだ。


「領主様、いつでもいけます」


 うなずき、私は尋ねた。


「今、街道の外にはどれぐらい敵兵がいるんでしょう?」


「人間だけなら、おそらく二千ほど。裏道側にも二千います。また、確認はしていませんが後続がいてもおかしくはありません」


「それでも、そこそこの人数ね」


 ぎりぎり千人ちょっとの兵力しかないハルスタットには、荷が重い敵の数だ。

 四倍差って、基本的には負けが見えている数なのだから。


 しかもその中の十数人を魔物にするだけで、戦力が倍にふくれあがるような状態になってしまう。

 でも、敵兵がそれなりに集結している、ということだ。


「それではベルナード軍が動いたらすぐ、実行してください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
シエラ、みんな、そして奏多先生も、踏ん張ってー!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ