第55話
ここに来る前に倒したゴーストのおかげでソウルはかなり溜まっている。使い切る前にクラーケンの触手をどうにか倒したいけど、ゴーストが意外と湧いてクラーケンの攻撃に参加できない。
「春名、うえ!」
颯音の叫びで上を見るとクラーケンの触手が叩き下ろそうとしていた。
俺は弓から盾に変形させ防御力をあげるスキル【プロテクト】を使い叩きつかれる瞬間に盾を傾かせ受け流す。そのまま、盾を回転刃に変形させてクラーケンの触手にダメージを入れる。
すると、クラーケンの触手は暴れまわりだして俺は咄嗟に距離を取った。
「大丈夫か! 春名!」
「俺の心配よりも自分の心配しろ颯音!」
「動きが遅いから平気だって!」
そう言いながらも颯音は三本の触手の攻撃を躱しながらも攻撃を繰り出していた。
颯音の後ろからゴーストが二体近づいているのに気づいた俺は弓に変形させて処理をする。
「後ろにも気を付けろよな!」
「春名がいるからだよ!」
颯音の言葉で俺は少し照れてしまう。
こんな場面でよくもまあ恥ずかしいセリフを……
そう内心思いながらも後ろから忍び寄ってくるゴーストを倒す。
颯音は大丈夫として、モレルさんは……
視線を向けるとモレルさんは赤く光る大砲を振り回しながらも三本の触手を弾き返す。
赤く光っているのはモレルさんのスキル【パワーチャージ】だ。スキル【砲撃】の回数を少なくする代わりに一定時間攻撃力を格段に上げるスキルだ。
遠距離攻撃も高火力で近接も高火力ってやばいな。今使ったってことは残りの砲撃回数は二回か。
「モレルさん! そっちは大丈夫ですか!」
「ええ! 大丈夫よ! この触手は任せて!」
モレルさんの体力はそんなに減っていないし大丈夫だろう。
「シュ!」
コガネの声がした方に視線を向けると一本の触手にしがみついて噛み付いているコガネがいた。時々、バチバチしているのは【電気の牙】を使っているんだろう。
触手のステータスを見ると体力が少しずつ減っているし麻痺のアイコンがついている。【麻痺の牙】も使っているみたいだな。
「おっと!」
気づいたらクラーケンの触手がまた攻撃してくる。
今度はちゃんと躱してから回転刃でダメージを与えていく。
「一丁上がり!」
いつの間にか颯音の方では三本の触手は複雑に絡まり解けなくなって動けなくなっていた。
「これで決める……」
颯音の両手から電気が迸ると一瞬で絡み合った触手の真上に移動していた。
「【轟雷落とし】!!」
激しい音とともに颯音は真下に向かって拳を振り下ろしたせいで砂煙が舞い上がる。
砂煙が晴れると三本の触手は黒い煙を立ててゆっくりと水中に戻っていく。
これでクラーケンの触手は残り五本だ。
俺も攻撃しないとだけどゴーストが邪魔だ。
「颯音! まだ行けるならゴーストの処理を代わってくれ!」
「あとでなんか美味しいの食わせてくれよ!」
「お安い御用だ!」
颯音の拳に炎が纏いゴーストたちを倒しに行く。
「シロガネ!」
「ビー!」
シロガネは光の粒子になって俺の武器に吸い込まれ特殊な革手袋に変わる。
「モレルさん! 離れて!」
「え、うん!」
掌の開閉口から黒い球体を沢山出して触手全てに向かって投げた。
「【共鳴技・ハニーボム】」
黒い球体は爆発して中から大量にネバっとした蜂蜜が放出され触手は蜂蜜まみれになる。
そのおかげで、触手は地面に張り付く。触手は動こうともがくも蜂蜜のせいで動けないでいる。
「モレルさん! 今です!」
「分かったわ!」
モレルさんはチャージをし始め、溜め終わると三本の触手に放った。
「俺たちもやるぞコガネ!」
「シュ!」
今度はコガネが光の粒子になり武器に吸い込まれて行く。そのせいでシロガネとの【共鳴】は解除された。
「【共鳴技・スパイダースネットスパーク】!!」
指先から電気を帯びたワイヤーが伸びていき二本の触手を切り刻んだ。
全ての触手は水中に消えていった。これで、本体が出てくるはず。
「………………あれ?」
いくら待ってもクラーケンの本体は姿を現さない。
「春名、本当に出るのか?」
「うーん、他のゲームとかだと出てくるんだけどな……」
「ハルナ君、なんか通路が出現したよ?」
本体が出現するにはなんか条件があるのかもしれないな。
まぁ本体と戦わずに済んだと思えばいいか。
「それじゃ行きましょうか」
二人は頷いて新しく出現した通路を進むことにした。
「お、外の光だ!」
颯音は走り出す。その後ろから俺とモレルさんも走り出した。
「あれ、俺たちの船じゃん。元の場所に戻ってきたようだな」
「散策はこれで切り上げない? 私もうほとんど戦えないし……」
「そうですね。じゃ今日はここまでで。颯音もそれでいいか?」
「おう。少し疲れたからちょうどよかった」
俺たちは船に戻りモレルさんと別れてログアウトした。
次の更新は9/21に予定しております。




