第430話
「適当に座ってくれ」
「お、お邪魔しまーす……」
恐る恐る豪華なソファーに腰掛ける。座り心地良過ぎなんですが。
執事の人がお茶を淹れてくれて、少し待っていると箱を持って総団長が反対側のソファーに座った。
「まずはこれを。お前たちに渡そう」
総団長さんが箱の蓋を開けると、中には七色の指輪が入っていた。
「この指輪にはこの王都の座標が刻まれている。これを使えば王都に一瞬で転移ができる」
「こんな便利な指輪をもらってもいいんですか!」
「ああ、お前たちの功績を考えたら足りないくらいだ」
「ありがとうございます。地味にここまで来るの時間が掛かるから助かります」
箱ごと受け取りインベントリにしまった。
指輪が七つ……あの日居た人数だよな。てことは、雫恩の分は無いか。まぁ兄ちゃんはあまり来れないし、兄ちゃんの分を渡しておくか。兄ちゃんは俺が連れて行けばいいしね。
「二つ目はこれだ」
総団長さんが今度出したのは装飾が豪華な短剣をテーブルの上に置いた。
「すっげぇ装飾品。戦闘用……じゃないですよね?」
「その通りだ。戦闘で使ったら一瞬で壊れるだろう。その短剣は我々との友好の証だ。それを見せれば王都での施設の使用や、立入を禁止している場所でなければ出入りが可能になる」
「……そんな権限までつけて、俺が悪用したらどうするんですか?」
「君なら悪用はしないと思っているさ。まぁその時は私の見る目がなかっただけだ。それに永久的に指名手配にするだけさ」
「えっぐ!? 悪用する気は無いけど内容がえっぐい!」
「半分は冗談だから気を付けくれよ」
「はい……」
苦笑を浮かべて短剣をインベントリにしまった。
「私から渡すものは以上だ。そう言えば魔術師殿、話があったな」
「頼まれていた調査の結果が出ましたのでご報告を」
「もう出たのか早いな。ハルナ殿、悪いがこの話は王室に関わることだから席を外してくれ」
「わかりました。それじゃ自分はこれで。ウィル、あとでな」
総団長さんの執務室を出て廊下を歩いていると、激しい音が聞こえ中庭に向かった。
中庭では颯音が絶え間なく案山子を殴っていた。
「何してんだよ颯音」
「ん? 春名か。話終わったの?」
「おう。総団長さんから王都に転移できる指輪を人数分もらったよ。これは、お前の分」
颯音に黒色の指輪を渡した。
「お、サンキュー! これでいつでも来れるのか」
「で、何してんだよ」
「案山子に俺のコンボを打ち込んでただけ。春名、久しぶりに一戦やらね? 」
「唐突だな。指輪を渡した後でなら別にいいけど」
「お? 珍しく誘いに乗ってくれるじゃん。さては、偽物だな!」
「……やっぱ気分が乗らないからやめるわ」
「ちょ!? 今の無し! 冗談に決まってるじゃん!」
「はいはい。じゃあ終わったら連絡する」
海都にメッセージを送ってから近くに転移をした。
海都は雫恩と行動していて、王都の全貌が見える城壁の上にいた。
「デート中にごめんな。二人にこの指輪を渡したくて」
海都には青い指輪を、雫恩には白色の指輪を渡して、指輪の機能も説明をする。
「この指輪で王都に転移が出来るようになるって」
「ほう。便利な指輪だな」
「春名さん、この指輪は総団長さんが渡した物ですわよね。全部でいくつ頂いたのかしら?」
「……全部で七つだけど」
「そうしますと私を除いたメンバーとルラーシャの分のはず。どう見ても街を救った報酬ですわね。私はその日、居なかったからその指輪は貰えませんわ」
「春名、こうなった雫恩は頑固だぞ」
「誰が頑固で?」
雫恩に怖気づいて口笛を吹いて誤魔化そうとする海都。
「わかったよ。これは俺が持っているいるから、必要な時に言ってくれれば貸すよ」
「わかりましたわ」
モレルさんとルーシャさんにメッセージを送ってから転移をした。
「あ、ハルナだ! こっちの席空いているよ!」
転移をしたら、モレルさんとルーシャさん、ルラーシャの三人でおしゃれなカフェで洋菓子を食べていた。
俺はルラーシャの隣の空いている席に座った。
「ハルナ君、ここの洋菓子どれも最高に美味しいよ! どれにする?」
「……何個食べたんですか?」
積み上がっている皿の数を見て俺は尋ねた。
「甘いもの別腹。気にしない」
「そうですか……三人に指輪を渡しておきますね」
モレルさんには黄色の指輪、ルーシャさんには赤色の指輪、ルラーシャにはピンク色の指輪をそれぞれ渡した。
「これでいつでもウィルの故郷に来れるね!」
「ルラーシャの場合は拠点に戻れないから誰かと一緒に行くんだぞ」
「あ、確かに……ウィルに相談してみよ」
「じゃあゆっくり楽しんで」
三人と別れて、颯音の近くに転移をした。
「お、来た来た! こっちはいつでも行けるぜ!」
「ルールはどうすんだ?」
「え、そりゃあ全力でしょ。全力しかないっしょ! 体力が無くなった方が負けな!」
颯音は三体の狼を呼び出して共鳴をした。
「はいはい。……それじゃ俺も全力で行きますか」
コガネたちを呼び出し、黒球と一体化したコガネたちがぐるぐると回り出した。
俺と颯音は激しくぶつかり爆発音が王城内に響き渡った。




