第416話
寄り道することなく、前回よりも早めに貿易の街サイゲルに到着。少し離れた所で地面に降り、人混みに紛れて街に入った。
「春名が言ってた通り、他のプレイヤーはまだ居ないみたいだね」
「時間の問題だろ。ほら、あそこにあるのがウィルの銅像だ」
ぞろぞろと銅像の前に行き、ウィルの銅像を見上げた。
「おお……大分老けているけど面影はあるな~」
「春名、このあとはウィルの屋敷に行くのか?」
海都の質問に少し考えて、俺は首を横に振った。
「今は……屋敷に行かない方がいいかな」
「私も思う! 王国の方に行くんでしょ? 早く行こ!」
「ほら、三人とも行くよ!」
屋敷がある方とは真逆に三人を誘導して街の外に出た。近くにいた衛兵の人に王国の方角を聞いて、西に真っ直ぐ飛行して向かった。
しばらく進むと、大きな城壁に囲まれ、中心には立派な城が建っていた。
人気がない場所を見つけ、地上に降りた俺たちは街道に出て、城門に向かった。
「止まれ! 初めて見る顔だな。犯罪歴を確認するゆえ、こちらに来てもらおう」
衛兵に呼び止められ、俺たちは素直に従い別室に移動した。
「では、まずは貴方から」
最初に確認されたのは兄ちゃんで、次に颯音、海都、ルラーシャの順で行われていった。
「最後の方、こちらに」
最後に部屋に案内された俺は、変な機械が置かれたテーブルの前にある椅子に座った。
「では、この機械に触れてください」
言われた通りに機械に触れると、少し光ると直ぐに収まった。
衛兵が機械に近づき、段々と険しい表情になっていく。
「この者を連行せよ!」
「え!?」
部屋に別の衛兵が入ってきた俺は拘束された。
「なんで、いきなり……! 俺はなんも犯罪はしてない!」
「詳しいことは取調室で聞く。連れていけ!」
手錠を付けられて、俺は衛兵二人に連れられていく。
「「春名!?」」
俺の姿を見た兄ちゃんと颯音が駆け寄ってくるが衛兵が立ち塞がる。
「春名、何をしたんだ?」
「俺はなんも……!」
「詳細は伝えられないが、ある屋敷に侵入した疑いがあるため取調室に連行することになった」
「屋敷に侵入?」
「屋敷ってまさか……」
「春名、俺たちに言ってないことあるよな?」
「えっと……」
ルラーシャに助けを求めて視線を送ると目を逸らした。
「疑いが晴れれば直ぐに釈放致します。皆様は問題が無いので自由に観光して頂いて構いません」
「兄ちゃん助けて!」
「春名、正直に伝えるんだぞ。待っている」
衛兵に両腕を掴まされ連れて行かれ、用意されていた馬車に乗せられた。
「これから連れて行く場所は特殊な場所な故、目隠しさせてもらう」
そう言われて袋を被らせ、馬車はゆっくりと走り出した。
どれくらい経ったのかわからない中、馬車の速度が遅くなったの感じた。
「降りろ」
袋を被せられたまま衛兵に連れていかれしばらく歩いた。
「袋を外せ」
袋を外されると、石レンガで出来た部屋に簡素な木製テーブルと椅子だけあった。
窓もないし、外の景色をわからない。マップ機能の使えないみたいだ。
「コガネ!」
『呼んだ? ってここ、どこ?』
「さあ? どこなんだろうなぁ~」
コガネが呼べるってことは他のメンバーも呼べるな。いざという時には脱出しよう。
適当にコガネと話していると、扉がノックされて、コガネにはフードの中に隠れてもらった。
「入るぞ」
凛々しい顔立ちの白銀の鎧を身に着けている獣人の男性が部屋に入ってきた。
「ふむ。随分と若いな」
男性は俺の向かい側の椅子に座った。
「まずは自己紹介しよ。アレックス・フリューゲルスだ。王国白銀騎士団、総団長を務めている」
「総団長!? これはまた……偉い人が出てきたな……」
「そうか? 私よりも強い者が現れればいつでも譲る気ではいるけどな。それで、君は?」
「……ハルナです」
「ハルナか……ふむ。それじゃあ本題に入ろうか。ハルナよ、私の質問に嘘偽り無く答えてくれ」
俺は頷いた。
「君が侵入した屋敷には、部外者は入れない結界が張られていた。だが、結界は壊された形跡は無く、一室の窓が溶けていることに警備隊の者が気が付いた。その後は屋敷内外捜索したが見つけることは出来なかった。侵入経路と理由を聞かせてくれ」
「……屋敷に侵入したのはウィリアム・フリューゲルスとウォルター・フリューゲルスの二人と両親が描かれている絵画があるか確認するために侵入しました。侵入経路は上空からで――」
「ちょっと待って。何故、君はその絵画の存在を知っているんだ? 世に出していない絵画だぞ?」
正直に答えようか迷ったが、何かウィルについて聞ければと思い、俺は本当のことを伝えることにした。
「信じられないと思うけど、実は――」
話そうとした瞬間、扉の向こう側からドタドタと誰か走ってくる音がして、勢い良く扉が開いた。
「総団長! 緊急事態です! 外に来てください!」
「わかった。悪いけど、少し待っててくれ」
そう言って総団長たちは部屋を出て行った。
「何があったんだろうな……コガネ?」
フードから飛び出したコガネは扉に近づき、脚を器用に使い鍵穴に入れ、ガチャって音がした。
「開けるなよ、コガネ……」
『開いたんだし、後を追いかけようー』
俺は深いため息をついた。
「一緒に怒られろよ?」
コガネを抱きかかえて、総団長たちの後を追いかけた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
大変遅くなりましたが、今年最後の更新になります。
次の更新なんですが、取り敢えずは1/6以降に再開しようと思います。
それでは、良いお年をお迎えください。




