第414話
「ん? 寒っ……!」
「どうした?」
「なんか急に寒く感じて……」
「まだ夏だぞ? 疲れているんじゃないのか?」
「そうかな……」
「明日は休みなんだし飲みに行こう」
警備の人たちの足音が遠ざかっていくのを待ってから俺とルラーシャは長い廊下を進んだ。
「ハルナはこの屋敷に来たことがあるの?」
「一応な。こっちだ」
窓から差し込む月明かりを頼りに廊下を進み、ある部屋の扉の前に止まった。
音を立てないようにゆっくりと扉を開けて部屋の中に入ると、色褪せていない幼少期のウィルとウォル、二人の両親の絵画だ。
「これってウィルなの?」
「ウィルと弟のウォルと両親の絵画だ。過去に行ったときに見た屋敷と同じだったからもしかしたらと思ったんだ」
「そうなんだ……ハルナの指輪、光ってない?」
ルラーシャに言われて指輪が光っているのに気が付いた。
「本当だ……あれ? あの本も光っているな」
本棚に並んでいる本の一冊が淡く光っているのが視界に入った。
淡く光っている本に指が触れるとガコンという音が聞こえると、絵画が開き、隠し扉を見つけた。
「行ってみるか?」
「うん、行こう!」
警戒しながら扉を開けると、屋敷の豪華な部屋と打って変わって質素なベッドやテーブルなどの家具が置いてあるだけの部屋だった。
「ここは……」
「ハルナ! こっち来て!」
ルラーシャに呼ばれて近くに行くと、テーブルに置いてある本を指した。
「王国の歴史……著者ウィルフォード……」
「ウィルフォード……ハルナ知ってる?」
「ああ。ウィルフォードは俺が咄嗟に作ったウィルの偽名だ」
ここがウィルの故郷だったとはな。最後の悪魔の島であったウィルの故郷は崩壊したはず。だけど、過去に干渉したことで未来が変わった。あの緊急メンテはこれの修正だったのかな。
「じゃあこの本はウィルが書いたの?! 読みたい!」
「読むのは拠点に帰ってからにしよう。確認も出来たしここを出よう」
本をインベントリに仕舞ってから部屋を出た。
「よし、屋敷を――」
「不法侵入者を探せ! 並行して屋敷の物が盗られていないか至急確認を!」
屋敷の外が騒がしいことになっていて、俺はスキルを使いルラーシャと一緒に姿を消した。
足音が近づいてガチャっと扉が開き、警備の人が部屋の様子を覗いてくる。
「こっちは異常ありません!」
「よし、次の部屋だ!」
扉が閉まり、足音が遠のいていき俺たちは胸を撫で下ろした。
「侵入した窓がある部屋に戻るのは危険か……よし、こっから出るか」
「え……? ちょっと!?」
部屋の窓ガラスをアカガネのスキルで溶かして、ルラーシャを抱え、そこから飛び出して上空に舞い上がった。
地上ではなんらか慌ただしくしているが、俺は気にせずに拠点に全速力で向かった。
「やっと帰れた……ハルナひどすぎ……」
「ごめんって。ウィルの本を先に読んでいいから、な?」
「……ん」
ルラーシャに本を渡して家に入り、ルラーシャは自室に入っていった。
俺は颯音たちに一旦戻ってくるようにメッセージを飛ばし、少ししたら颯音たちは拠点に戻ってきた。
「おかえり皆。なんか手掛かりはあった感じ?」
そう聞くと颯音が答えてくれた
「新しい島が追加しているみたいだけど、まだ見つかっていないって。それと新モンスターも追加されたみたい」
「人魚族との貿易が始まってた。海原の街にも人魚が沢山いた。お店が忙しくなってたからしばらくはそっちの手伝いしなきゃ」
「なるほど……ルーシャさん、手伝いが必要な時は言ってくださいね」
ルーシャさんは頷いた。
「春名はどうなんだよ? その様子だとなんか見つけたんだろう?」
「偶然だけど見つけたさ。ルラーシャ! ちょっと来てくれ!」
「……今、いい所なのに……」
大声で呼ぶと、ルラーシャは渋々と部屋から出てきた。
「ルラーシャが今持っている本はウィルが書いた本だ」
そう伝えると皆の視線がルラーシャに集まった。




