第411話
街の大通りを進んで行くも人影は少なく、ほとんどが騎士だった。
モンスターの襲撃も止み、平穏が訪れていたけど警戒は緩めていないようだ。
そんな街中をウィルの後ろを歩いて、しばらくついていくと段々と波の音が聞こえてくる。砂浜に到着したウィルは腰を下ろし、俺は大の字で空を見上げた。
ウィルが口を開くのを待っていると、ガサガサとポケットを漁りだした。
「ハルナさん。大事な話の前にこれをルラーシャに渡してください」
そう言ってウィルが渡してきたのは三つの指輪だ。
「指輪? 指輪ぐらいなら自分で渡せばいいのに。その方がルラーシャも喜ぶと思うし……」
「僕だって自分で渡せたらって思ってます。でも、ハルナさんたちとルラーシャにはしばらく会えないから……」
ウィルは視線を海の方の向けた。
「オピオマリスさんが言ってた通り、あの状態からウォルを人の姿に戻す事は出来ない。だから、僕はウォルの時間を戻す事で事象を無かったにしたんだす。ただ、僕の力だけでは不可能だった。クロノス様を召喚して時間を戻したんです。その対価に僕はこの時空間に留まって彼らを、この世界を守ることを約束したんです」
クロノスのが去り際に言った「これがあやつの選択だ」ってこれのことだったんだな。
「しばらく会えないって言ってたけど、時空間を移動するためのポータルがあるんだぜ? もう会えないってことはないんじゃないか?」
「それも無理なんです。この世界は史実とかなりずれてしまったとクロノス様が仰っていました。これ以上、歪んでは行けないとこの世界に干渉出来ないようにするそうです」
「じゃあウィルとは本当にお別れってこと?」
そう尋ねるとウィルが首を横に振った。
「必ず帰る方法を見つけ出して、皆のいるところに帰ってきます」
「……わかった。皆でお前の帰りを待ってるよ」
ウィルと約束を交わして、受け取った指輪をインベントリにしまった。
「そうだ。ハルナさんに指輪の説明をしてませんでしたね。その指輪には僕の召喚獣の力が宿っています。何かあれば自動でルラーシャを守るように施しています」
「そうなんだ。必ず、ルラーシャに渡すよ」
「お願いします。……そろそろ時間のようです」
ウィルが立ち上がると、周囲の景色がガラスが砕けるように散っていき、体が吸い込まれていく。
「ハルナさん! 眷族の指輪を肌身離さず身につけてください!」
その言葉を最後に俺は色鮮やかな世界に吸い込まれた。気が付くと俺は自室のベッドで横になっていた。
体を起こして直ぐにポータルを起動したが、目の前のウインドウ画面に「移動する時間で起動してください」とメッセージが表示された。
「本当に行けなくなっている……」
部屋を出た俺はルラーシャの部屋に向かった。ドアをノックすると、まだ起きていたのかルラーシャがドアを開けてくれた。
「ハルナ? こんな遅くにどうしたの?」
「ルラーシャに伝えなきゃ行けないことがあるんだ。部屋に入ってもいい?」
「うん。どうぞ」
ベッドに座るルラーシャの隣に座り、俺は過去の世界の出来事をすべて伝え、ウィルから頼まれた指輪をルラーシャに渡した。
「……伝えてくれてありがとう、ハルナ。少し、一人になりたい」
「わかった。それじゃ俺は寝るな」
「うん、おやすみ」
ルラーシャの部屋を出て俺はログアウトして、横になり目を瞑った。
「……寝れない」
体を起こして、飲み物を飲みにキッチンに向かった。
コップ一杯分の冷たい水を飲み終わると、兄ちゃんの部屋のドアが開いた。
「春名? こんな時間にどうした? まさか今までゲームをしていたんじゃないよな?」
「違うよ。一時間前にぐらいに横になったんだけど寝れなかくて、水を飲みにきただけ。てか、兄ちゃんもこんな時間まで起きてたの?」
「作業していたからな。明日も学校なんだし早く寝ろよ」
「分かってるよ、おやすみ」
部屋に戻り、横になっているといつの間にか夢の世界に旅立っていた。
次の日。ゲームの緊急のメンテナンスが入り、翌日まで続いたのは予想外だった。




