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第410話

 ウィルの近くで発生した光の柱は徐々に集約していき、魔法陣が描かれた地面の中心には茶色のローブを纏った長い白い髭を生やした丸眼鏡をかけた老人が現れた。


「……クロノス様」


 どうやらウィルは神の一柱のクロノスを呼んだようだ。

 クロノスがウォルに視線を向けた途端、ウォルは見えない力で地面にねじ伏せられた。

 ウォルは抵抗しようとするもびくとも動かない。これが神の力か……

 クロノスは目の前に行き手を翳すと、ウォルを中心に魔法陣が展開され、光に包まれた。

 少しずつウォルの姿が人に戻っていくのを見ていると、クロノスと視線が合った。


『これがあやつの選択だ』


 そう言い残して魔法陣は激しい光を放った。

 光が収まると禍々しかったウォルは元の人間の姿に戻っていた。

 俺は急いでウォルに駆け寄り、呼吸しているのを確認して胸を撫でおろした。


「ハルナさん、ウォルは……」


「呼吸はあるし、状態も大丈夫そうだ」


「よかった……おかえり、ウォル」


 安堵したウィルは優しくウォルの頭を撫でた。


「にしても、まさか神を現世に召喚するとはな。それもかなり強力な神だな。我らの王と同等……いや、それ以上の存在……まぁそんぐらいしかわからなかったけどな。お前たちといると愉快なことしか起きねぇな」


「あはは……」


 そんな会話をしていると意識を取り戻したウォルが目を覚まし、ウィルは少し離れてフードを深く被り顔を隠した。


「ウォルターさん。気分はどうですか?」


「少し眩暈がするぐらいだ……ハルナ殿、何があったか聞かせてくれ」


 俺はウォルが化け物の姿になって俺たちと戦い、どうにか取り押さえて元の姿に戻せたことを伝えた。


「そんなことが……皆には迷惑をかけてしまったな。助けてくれてありがとう。えっと……ウィルフォード君だったかな」


「……助けれてよかったです」


 ウィルはぎこちなく差し出されたウォルの手を握った。


「立てそうですか?」


「ああ。問題ない。それよりも私たちと誘拐された住人たちは?」


「すでに住人たちは俺の仲間が浜辺まで避難させてます」


「そうか。私たちもここを出よう」


 警戒しながら来た道を戻るも、敵は一体も現れず、俺たちは無事に施設を脱出し、砂浜に向かった。


「あ! おーい! 春名ー!」


 俺たちを見かけた颯音は大声で手を振った。


「お待たせ。こっちは大丈夫だったか?」


「ん-、何体かモンスターが襲ってきたけど平気だったぜ。二人を救出したし、街に帰るんだろう? この人数をどう運ぶんだ?」


「シロガネを呼ぶ」


 クモガネとアカガネを戻して俺はシロガネを呼び出した。


「モンスター!?」


「あのモンスターはハルナさんの仲間です」


 武器を構えようとしたウォルを手で制止する声が後ろから聞こえたが聞き流した。


「シロガネ、【空艇蜂兵】を呼んでくれ」


『この人数を乗せればいいのね。わかったわ。来なさい、我が兵よ!』


 シロガネが巨大な空艇を召喚し、足元に魔法陣が現れると、一瞬で【空艇蜂兵】のデッキに移動した。


「これは……船、なのか?」


「空飛ぶ船みたいなものです。これで街まで皆さんを送り届けます。モレルさん、食べ物とか余ってます?」


「うん。軽いものならいくつかあるよ。渡してくるね。ウォルターさんもどうぞ」


「あっ。ああ。頂こう」


 食べ物を私にモレルさんは走り去っていく。

 ウォルを含めて住人たちは船内で休み、俺はデッキから景色を見ていると、オピオマリスさんが話しかけてきた。


「この進路の先にお前たちの街があるんだな」


「オピオマリスさんは人間の街には来たことが?」


「一回も無いさ。だが、今回の件でこの世界には面白い物が沢山あると知れた。いつかは、隙を見つけては訪れようと思う」


「ほどほどにしてくださいね。……行かれるんですね」


「ああ。そろそろ帰れねば、臣下に怒られてしまう。また縁があれば会おう、ハルナよ」


「はい、またどこかで」


 オピオマリスさんはドラゴンの翼を広げて飛び去ってしまった。

 一時間ぐらい掛かってようやく街が見え、それを船内にいる人たち伝えるとぞろぞろとデッキにやってきた。


「俺が先に街に降りて知らせてくる」


「それなら私も同行しよ」


「わかりました。シロガネ!」


 街の上空の中心に【空艇蜂兵】は停止し、俺とウォルを街の中心にシロガネは転移させた。


「手を上げろ! 抵抗するのら……って副団長!? ご無事だったんですね!」


「ああ。誘拐された住人たちも移動させる故、直ぐ救護室に運ぶ準備を」


「はっ!」


 シロガネに合図を送り、残りの住人たちを街に転移させ、ウォルの指示の元、次々に救護室に運ばれた。しばらくするとこっちの世界のウィルが現れた。 


「ウォルター! 怪我は!」


「ご心配をおかけしました。兄さん」


「お前が無事ならそれでいい。ハルナ殿、弟と住人の救出ご苦労だった。ありがとう。それと今回の報酬を渡したい。ハルナ殿の都合が良いときに屋敷に来てくれ」


「わかりました」


 二人が去るのを見届けてから、俺たちは借りている宿屋に戻った。

 部屋に向かうときにウィルに呼び止められた。


「ハルナさん、まだ時間はありますか? 大事な話があって……」


「あ、うーん……少しだけなら。颯音、ポータルの腕輪を渡すから先に戻っててくれ」


「おう。遅くなんなよ」


 俺とウィルは宿屋を後にして街に繰り出した。


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